ドストライクの男

「エーッ、だって小鳥ちゃんを取られたらやだもん。お別れの挨拶なんかさせたくないもん!」

「やだもん、させたくないもんって、貴方、幾つですか!」

二人のやり取りを聞いていた小鳥が言葉を挟む。

「……ということは、父が私たちのデートを邪魔し、光一郎さんを遠くに追いやったってことですか?」

そう、と光一郎が頷く。

「いくらなんでも、君の親父さんが邪魔をした、と僕も言えなかった」
「パパ! 貴方って人は……」

盛大な溜息を付きながら、小鳥は『親の愛』=『無限大』を思い出す。

「ちょっと間違った方向ではありますが、私のことをズット愛してくれていたのですね」

三日月にギュッと抱き付き、小鳥は「ありがとう」と呟く。

「そうよ、誰よりも小鳥を愛しているのはパパよ」

ギュッと小鳥を抱き返し、三日月は光一郎に目をやりフフンとほくそ笑む。
クッと唇を噛み、光一郎が悔しそうな表情を浮かべる。

「パパ、ありがとう。パパの『愛情』を胸に、光一郎さんと『愛』を育んでいきます」

小鳥の言葉に、今度は三日月が唇を噛む。

「そうだね、小鳥、『愛』を育んでいこう」

光一郎は小鳥を三日月から奪還し、彼女の肩に腕を回し、優しく見つめる。
しかし、やっぱり小鳥は小鳥だった。

「あっ、私、仕事に戻らなきゃ。では、失礼します、社長、Mr.光一郎」

クールに言うとドアに手を掛ける。

「小鳥ちゃん、光一郎抜きでランチ一緒に取りましょう!」
「ランチは僕と取ります、十年前の穴埋めにね!」

ヒートアップする二人のやり取りを背に、まだまだ一波乱も二波乱もありそうで、本当に結婚できるのだろうか、とちょぴり不安になりながら、小鳥はドアを開ける。

二十歳の誕生日まで、まだ時間はある。
『ドストライクの男』候補はこのビル、B.C. square TOKYOにはたくさんいる。
だから、もう少し様子を見てもいいかな、と不埒な思いが小鳥の頭を一瞬過る。

まっ、でも、一途な男、白鳥光一郎が私を手放すことはないだろう、と肩越しに振り向き、当の本人を見る。

優しい眼差しで小鳥を見つめていた光一郎が軽くウインクする。

「本当、嫌味なほどタイプ。ドストライクの男だわ」

彼のハートを受け止め、小鳥は極上の笑みを浮かべると、今日も『恋するビル』の平和と安全を願い歩き出す。

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