天に降る雪
まだ生きたい
私はまだ生きたい。まだ生きたかった。
なのに、私は何故此処にいるのだろう。
思い起こせば二日前の夕方のこと。
そう、、、あれは、、、ずっと大好きで憧れていた人と私が其処に居た。
愛してるそんな気持ちをお互いが確認し合うことが出来たのだ。俗に言う、幸せの絶頂とはこのことだろう。
そもそも、私とあの人とが出逢ったのは、私が高校入学前に近所の美術展でみた素敵な絵からはじまった。
その絵は濃い青い背景にピンクが重ねてあって、何かが真ん中で白く光かり全体的に桜の花びらが散っているのかな?抽象的ではあるが確かそんな感じの絵だった。
ただ、今まで見たこともないのに何故かその絵をみると、とても懐かしく私の心を揺さぶり涙が溢れた。
それが印象深く絵の下にあった名前と高校名「上杉咲良・笛和高校・美術部」を心にメモした。その後、笛和高校(てきわこうこう)を受験。
私は、なんとかこの高校に受かって晴れて新入生として美術部に入部したんだ。
そこに大好な先輩がいたから入部した。あの絵を描いた上杉咲良先輩。
「すみません部長さん。上杉先輩ってどなたですか?」
「僕は知らないなあ。上杉なんて名字の子はいないよ。」
「上杉さくら、もしくは上杉さらって聞いたことありません?」
「知らないよ。私の学年にはいないなあ。卒業生でも、そんな名前は聞いたことない。」
探した。探したのに、でもそこにあの人はいなかった。
美術部に入部し数日すると先輩たちが騒ぎはじめた。
「今日、顧問くるらしいよ。」
「えーオッサン来んの?やだなあ。」
どうも、美術部の顧問の先生はオッサンと呼ばれているらしかった。
しばらくすると、ガラガラ…。静かに背中を丸め汚れた白衣の頼り無さそうな男が無言で美術室へと入ってきた。
歳は、だいたい私のパパくらいかな。わかんないけど40~50歳くらいかな。
そんなことを思っていると突然、その顧問の先生は私の顔に視線を向け、驚いたような顔をして、ものすごいスピードで駆け寄ってきた。
そして顔を近付けて小さな声で囁いた。
「おい、さくら!俺のことおぼえていないか!」
突然のことで何だか解らず、私は強い口調で言い返した。
「何なんですか!やだ!キモ~い。」
「それに!私の名前は武田結衣です!」
髪ぼっさの黒ぶちメガネの下から覗く、ぱちぱちしたまつ毛が長い。切れ長の眼は、意外にも綺麗で吸い込まれそうになる。
何故か、お腹から顔に向けてカァーっと熱くなるのを感じた。やだ私…。
私の強い口調に驚いてか、顧問は私のことをチラチラと何度も振り向きながらも、しょぼんと肩を落として、ゆっくりと美術室を後にした。
「ちょっと凄いじゃん。武田ちゃんが上杉ティー追い返したぞ。」
「なんかわからんが、結衣ちゃんオッサン撃退。」
「あの顧問怖いんだよね。よくやった。」
あとで先輩たちに話を聞くと、あんな風貌をしていながらも気性は荒く、どうも前に来た時なんかは絵は描けないくせに、デッサンがまずいとか、色が気に入らないとか、難癖つけて、美術室をズタズタにするほど暴れたらしい。
そして抵抗する生徒には伝統とかで、成績にひびくぞと脅すという。何とも信じがたい悪人であることがわかった。
「そんな風にみえなかったけどなあ。ひどいですね。ところで部長、顧問の先生は上杉…なんて名前なんですか?」
もしや、あの絵の人かと思い聞いてみる。
「上杉祐輔、42歳、独身。生物を担当してて、みんなはオッサンて呼んでる。まあ、キモいし怒鳴るし暴力教師だからとにかく気を付けなよ。」
「まあ、いつも2~3ヶ月に1回来る程度だし、もう当分は来ないだろう。」
そう言った部長の憶測はハズレ、この日から美術部顧問は毎日来ることを、まだ誰も知るよしもなかった。
だが、毎日来る上杉先生は、先輩たちが言ってるようなことは、何もなかった。もしかしたら、なくなったと言った方がよかったのかもしれない。
ただ、相変わらずの汚い白衣と背中を丸め髪ぼっさのメガネ姿で部員を見守って座っている。私にはそれが、まるでしっぽをふる仔犬のようにみえた。
あの日以来、上杉先生は私のことをチラチラとみる。そう、見ていることを美術部全員が知っていたが言葉にすることが出来ずにいた。
私は上杉先生と目が合った瞬間から反らされないうちに以前から疑問に思っていることを聞いてみることにした。
「あの絵、先生が描いたんですか?」
「何のことだ?」
「ええと、1年前なんですけど、近所の美術展に行った時に、上杉咲良(さくら?)・笛和高校・美術部って書いてあったんです。」
上杉先生は、あの時と同じ目をして答えた。
「何か思い出したのか?俺のこと思い出したのか?さくら。」
ほら、またこれだ。
「先生、私は武田結衣です。ゆいです。」
「そうか。」
それから先生は、うつむき、顔を隠しずっと黙ったままだった。
そして、それから2年後の中学3年のあの日…私、武田結衣は死んだ。
上杉先生を愛していた。まだ生きていたかった。愛を確かめ合ったあの2日前に戻りたい。でも戻れない。
何故私は死んでしまったのだろう。
ここは何処だろう。
なのに、私は何故此処にいるのだろう。
思い起こせば二日前の夕方のこと。
そう、、、あれは、、、ずっと大好きで憧れていた人と私が其処に居た。
愛してるそんな気持ちをお互いが確認し合うことが出来たのだ。俗に言う、幸せの絶頂とはこのことだろう。
そもそも、私とあの人とが出逢ったのは、私が高校入学前に近所の美術展でみた素敵な絵からはじまった。
その絵は濃い青い背景にピンクが重ねてあって、何かが真ん中で白く光かり全体的に桜の花びらが散っているのかな?抽象的ではあるが確かそんな感じの絵だった。
ただ、今まで見たこともないのに何故かその絵をみると、とても懐かしく私の心を揺さぶり涙が溢れた。
それが印象深く絵の下にあった名前と高校名「上杉咲良・笛和高校・美術部」を心にメモした。その後、笛和高校(てきわこうこう)を受験。
私は、なんとかこの高校に受かって晴れて新入生として美術部に入部したんだ。
そこに大好な先輩がいたから入部した。あの絵を描いた上杉咲良先輩。
「すみません部長さん。上杉先輩ってどなたですか?」
「僕は知らないなあ。上杉なんて名字の子はいないよ。」
「上杉さくら、もしくは上杉さらって聞いたことありません?」
「知らないよ。私の学年にはいないなあ。卒業生でも、そんな名前は聞いたことない。」
探した。探したのに、でもそこにあの人はいなかった。
美術部に入部し数日すると先輩たちが騒ぎはじめた。
「今日、顧問くるらしいよ。」
「えーオッサン来んの?やだなあ。」
どうも、美術部の顧問の先生はオッサンと呼ばれているらしかった。
しばらくすると、ガラガラ…。静かに背中を丸め汚れた白衣の頼り無さそうな男が無言で美術室へと入ってきた。
歳は、だいたい私のパパくらいかな。わかんないけど40~50歳くらいかな。
そんなことを思っていると突然、その顧問の先生は私の顔に視線を向け、驚いたような顔をして、ものすごいスピードで駆け寄ってきた。
そして顔を近付けて小さな声で囁いた。
「おい、さくら!俺のことおぼえていないか!」
突然のことで何だか解らず、私は強い口調で言い返した。
「何なんですか!やだ!キモ~い。」
「それに!私の名前は武田結衣です!」
髪ぼっさの黒ぶちメガネの下から覗く、ぱちぱちしたまつ毛が長い。切れ長の眼は、意外にも綺麗で吸い込まれそうになる。
何故か、お腹から顔に向けてカァーっと熱くなるのを感じた。やだ私…。
私の強い口調に驚いてか、顧問は私のことをチラチラと何度も振り向きながらも、しょぼんと肩を落として、ゆっくりと美術室を後にした。
「ちょっと凄いじゃん。武田ちゃんが上杉ティー追い返したぞ。」
「なんかわからんが、結衣ちゃんオッサン撃退。」
「あの顧問怖いんだよね。よくやった。」
あとで先輩たちに話を聞くと、あんな風貌をしていながらも気性は荒く、どうも前に来た時なんかは絵は描けないくせに、デッサンがまずいとか、色が気に入らないとか、難癖つけて、美術室をズタズタにするほど暴れたらしい。
そして抵抗する生徒には伝統とかで、成績にひびくぞと脅すという。何とも信じがたい悪人であることがわかった。
「そんな風にみえなかったけどなあ。ひどいですね。ところで部長、顧問の先生は上杉…なんて名前なんですか?」
もしや、あの絵の人かと思い聞いてみる。
「上杉祐輔、42歳、独身。生物を担当してて、みんなはオッサンて呼んでる。まあ、キモいし怒鳴るし暴力教師だからとにかく気を付けなよ。」
「まあ、いつも2~3ヶ月に1回来る程度だし、もう当分は来ないだろう。」
そう言った部長の憶測はハズレ、この日から美術部顧問は毎日来ることを、まだ誰も知るよしもなかった。
だが、毎日来る上杉先生は、先輩たちが言ってるようなことは、何もなかった。もしかしたら、なくなったと言った方がよかったのかもしれない。
ただ、相変わらずの汚い白衣と背中を丸め髪ぼっさのメガネ姿で部員を見守って座っている。私にはそれが、まるでしっぽをふる仔犬のようにみえた。
あの日以来、上杉先生は私のことをチラチラとみる。そう、見ていることを美術部全員が知っていたが言葉にすることが出来ずにいた。
私は上杉先生と目が合った瞬間から反らされないうちに以前から疑問に思っていることを聞いてみることにした。
「あの絵、先生が描いたんですか?」
「何のことだ?」
「ええと、1年前なんですけど、近所の美術展に行った時に、上杉咲良(さくら?)・笛和高校・美術部って書いてあったんです。」
上杉先生は、あの時と同じ目をして答えた。
「何か思い出したのか?俺のこと思い出したのか?さくら。」
ほら、またこれだ。
「先生、私は武田結衣です。ゆいです。」
「そうか。」
それから先生は、うつむき、顔を隠しずっと黙ったままだった。
そして、それから2年後の中学3年のあの日…私、武田結衣は死んだ。
上杉先生を愛していた。まだ生きていたかった。愛を確かめ合ったあの2日前に戻りたい。でも戻れない。
何故私は死んでしまったのだろう。
ここは何処だろう。
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