天に降る雪
三途の小川
長いトンネル。出口のみえない長いトンネル。

どのくらい歩いたんだろうか、もう入口もみえない。さっき、1時間前なのか1日前なのか時間というものが、ぼやっとして定かではないが、後ろから人が垂れたような影が襲いかかってきて必死で逃げてきたことだけは覚えている。また来るかもと引き返すのが怖くなって今は出口に向かっているのかもしれない。

もう1週間か1ヶ月か歩いたのかもしれない。トンネルの出口がみえてきた。とにかくあの光に向かって走ってみようと思った。
その瞬間、体が浮いてビューンと私は光に包まれて風になった。そこに振り返っても、もうトンネルはなかった。
辺りを見渡すと何処を切り取っても全面お花畑でかすかにいい香りが漂って何かの歌が聴こえてくる。

死んだらいい人なら天国へ悪いことしたら地獄へと言うけれど、ここは天国なのかもしれない。

私の前には小川が流れている。
「まさかこれが三途の川というやつ?」
ちょっとふざけながら言ってみると、目の前に小さなお地蔵さまのような形のツルッとした生き物が表れた。
「オレはこの橋の番人の餓鬼大将っていうだ。おまえ、六文銭を持ってるかい?持ってたらここを通してあげる。」
「六文銭なんて持ってないよ。今は円だよ。円も持ってないけどね。てか、こんな小川なんてピョンってとんだらすぐ渡れるつーの。」
「せーの!」
ドシン…。あれれ、ピョンって飛べない。
「因みにガキ大将さん六文銭持ってなかったらどうなるの?」
餓鬼大将は偉そうにうで組をしながらエッヘンと言い返した。
「それはもちろん決まってるだ!地獄行き。だがな、お前の着ている服を全部脱いでオレに、まっ裸をみせてくれたら渡らせてやってもいいぞ。」
「え…ガキくんってエッチねえ。子供のくせに。」
わざと意地悪っぽく、ガキ大将の両方のほっぺを親指と人差し指で優しくつねってみた。ぷにぷに。
「やみゃろ。うちのガキにゃに、にゃにするにゃ。」
遠くからまた、体は猫で顔がキツネのような小さくてかわいい生き物がやってきた。
「畜生はん。オレは大丈夫だ。こいつはどうせ、いつもんの地獄行きだから。」
ガキ大将のほっぺから離した右手に違和感を感じる。
「おいおみゃい!その手に握ってるのはにゃんにゃんだい?」

違和感のある右手の中指と薬指と小指をゆっくりと開いてみる。
「あ…これ六文銭だあ。」
きっと誰かが私の棺に入れてくれたのだろうと思った。

お陰ですんなりと小川にかかる小さな橋を渡ることが出来たのだ。しかもこれは数百年ぶりということで、VIP待遇なのだそう。ふたつの小さな生き物が手を取って一緒に渡ってくれたのだ。
「すごいだ。オレら、王妃さまに誉められるぞ。」
「すごいにゃ。200年ぶりのご褒美は、にゃにかにゃ。」
そう言い、まんべんな笑顔で小さい生き物は去っていった。
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