ブロックノイズ
「そうかそうか、ナツキのことが気に入ったかレモン」

「レ…レモン?」

「あぁ、こいつはレモンってんだ」

「すごい恐そうな犬なのにすごい可愛い名前なんですね」

「娘がな、まだこいつが手のひらサイズだった時に付けたんだ」

「手のひらサイズが何を食べたらこんなにでかくなるんですか」

「んー…ビーフストロガノフが大好きだな、なーレモン〜」

レモンの頭を両手でわしゃわしゃと撫で乙女のような笑みを浮かべて野太い声で名前を呼ぶパーク。
レモンのギャップもそうだが、パーグのギャップもなかなかの衝撃映像である。

「エサにビーフストロガノフってどう……あ!」

「ん、どうした?」

突然の夏希の大声に手を止めるパーグ、そして手を動かせと言わんばかりにパーグを見つめるレモン。

「ごめんなさいこんな所で無駄話してる場合じゃありませんでした、早く帰らないと!」

「ちょちょちょちょっと待って落ち着け!」

「いやホントに助けてくれてありがとうございました!」

「だから待てって!」

パーグは夏希の細い腕をひょいと片手で掴む。

「もうじき日も暮れる、それにこの森にも詳しくないように見える。おそらくお前はよそ者なんだろ?第一またあの狼共に狙われたらどうするんだ。そんな傷だらけの格好でしかも靴は片方行方不明、そしてこんな獣道だまともに歩けるとは思えない。運良く今回は助けてやれたが二度目の保証はないぞ」

「………」

パーグの言う通りだ、そう素直に受け止めた夏希はなにも言葉が無かった。

「…すまない、少し強く言いすぎたか」

「いえ、ちょっと大事な用を思い出してつい」

「なるほどな、とりあえずここを一人で歩くのは危ないから家に来い。レモン時間で5分程度だ」

「…わかりました、レモンって移動手段なんですね」

「でけーからな、まぁ何度かこれで娘に叱られたが気にすんな」

地面を軽く蹴りレモンの背にドスンと跨り夏希に左手を差し出すパーグ。早く乗れと指示するような目でレモンも夏希へ横目を向ける。
馬に乗ることを夢見てたわけではないが、まさか最初に犬に跨ることになるとは想像していなかった夏希。
モフモフする腹部に右手で少しだけ触ると、レモンが呼吸する動きが大迫力で伝わった。ただの呼吸なのだが、レモンが吸った空気がそこに溜まりまた吐き出されていくその動作がどこか神秘的でもあった。

「さ、乗れ」

パーグの左手を掴み、グイっと引き上げられながら勢いよくレモンに飛び乗る。
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