ブロックノイズ
分かってますよと言わんばかりに無言で立ち上がり、ドアノブに手をかけたと同時にリビングから聞こえてくるインターホン。
即座に夏希が扉を押し開けると、ものの1秒で開いたことに若干驚いたような顔を見せながら、隣家に住む高橋千鶴が立っていた。

「おはようございます刀八米さん〜」

「あぁ、おはようございます…」

満面の笑みで腰を折り曲げ挨拶をする高橋に引き気味な楓。夏希も小さく挨拶をする。
近所のママ友からは、図々しいということで有名な高橋だがその手には回覧板を持っており、終わり見えない面倒な長話は無さそうだと楓は少しだけ安心した。

「あ、回覧板です〜」

「はいありがとうございます」

そのまま楓に回覧板を渡した夏希が、高橋の横に抜けようとした時だった。

「今日は夏希くんの誕生日なんですって〜?」

「あ、はいそうです僕誕生日で…」

誕生日を把握されてたことに悪寒を感じた夏希だがなんとか笑顔を取り繕う。

「楓さんビーフストロガノフ作るんですって〜?」

「…はい、そうなんですよ母の得意料理らしくて」

どうやらここでドア越しに聞いていたということが判明し、ますますヤバい隣人高橋。

「今日は奮発して夏希の肉で作ろうかなって思ってるんです」

「それ奮発じゃなくて肉調達の最終手段ね、いや最終手段でもねーけど。しかもそっから既に趣味炸裂してんじゃねーか、ていうかもうオレストロガノフだろそれ」

「アッハッハ!、仲良し親子で素敵ですねぇ〜」

「いやいやもう反抗期が大変で」

「拓望くんが行方不明になってもう8年でしょ〜?夏希くんがしっかり支えてあげないとねぇ〜」

「あぁ、ですね」
< 7 / 21 >

この作品をシェア

pagetop