溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛
仮面が呼んだ予期せぬ出会い
四月半ばの夕暮れ時は、まだ肌寒い。
少し湿った潮風を頬に感じながら、タクシーをゆっくりと降り立つ。
その瞬間ぐらついた、ヒールの高いパンプス。
それをなんとか持ちこたえ、背筋を伸ばした。
停車しているたくさんの高級車。
それらに圧倒されながら足を進め、私はある場所で目の前のものを見上げた。
全長二百メートルはありそうな豪華客船。
テレビでしか見たことのない姿をこんなに間近で見るのは初めてだ。
甲板に灯されたライトが薄紫の空によく映えて、その美しさと船のあまりの大きさに思わず見惚れた。
着飾った人たちが、タラップから船の中に一様に吸い込まれていく。
どの人もみな、私では足元にも及ばないセレブのオーラを放っていた。
ふと、このまま進んでもいいものかと不安が押し寄せる。
けれど、ここまで来てしまった以上、この船に足を踏み入れずに帰るわけにはいかない。
下降気味の気分を奮い立たせ、タラップに立つタキシード姿の受付の人にチケットを見せた。
その男性は、チケットと私を目で確認したあと、「ようこそおいでくださいました」と三十度ほど頭を下げた。
ごくごく普通の庶民である私。
その私が、見るからに場違いなところに来たのには訳がある。
それは五日前のことだった。
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