溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛
ラスボスの迫力はそこに健在で、今すぐ「すみませんでした!」と逃げてしまいたくなる。
今ならきっと、どれほど脚力に自信のある人でも追い越せるだろう。
「……こ、こんにちは」
「挨拶なんかいいわよ。目障りだから消えてくださらない?」
シッシとばかりに片手を振った。
野良猫にでもなった気分だ。
圧倒的存在のボス猫を前に、すごすごと退散する方が自分自身のためじゃないかと、つい弱気な心が顔を覗かせる。
それを袋に詰め込み、決して開かないように口を何重にも紐で縛る。
そして、ポーンと力任せに彼方へと投げやった。
ここで負けてはいられない。
怯んでいたら、前へ進めなくなってしまうのだから。
腹を決めて、バッグからチケットを二枚取り出した。
それをお母様に向けて差し出す。
「それがなんだっていうの」
蔑むような眼差しでチケットと私を見た。
「お母様と私のです」
お母様と涼子さんのふたりが大ファンだという、アーティストのツアーファイナルのチケットだった。