溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛
「あの茶色いマンションで降ろしてください」
タクシーの運転手に告げると、軽いブレーキ音と共に車が停められた。
これで本当に終わり。
ナオミとして副社長に会うのは、今夜限りだ。
どことなく寂しい思いを抱えながらバッグの持ち手を握りしめる。
先に降り立った副社長が伸ばした手に、自分の手を重ねた。
そして、軽く引かれる格好で降りたときだった。
副社長が私を引き寄せ、なんとその腕の中に収まってしまったのだ。
唐突すぎて事態を飲み込めない。
確かなのは、手違いで副社長が私を抱きしめたのではないということだけ。
彼の腕が私の背中に回されていたからだ。
「……芹川さん?」
かろうじて名前を呼ぶ。
瞬間的に張りつめた胸が苦しい。
呼吸の仕方を忘れてしまったように、息がうまくできなかった。
「また会ってくれる?」
私の耳元で囁いた言葉に、尋常じゃないほどに鼓動が速く打つ。
思いがけないひと言だった。