溺愛副社長と社外限定!?ヒミツ恋愛

彼女から少し離れて首を縦に振ると、亜樹は一瞬時が止まったかのように固まった後、「羨ましいー!」と顔をくしゃっとさせ首を小刻みに横に振った。
座りながら地団駄まで踏む。

これでは、キスされたことは絶対に言えない。


「ところで、あっちは美緒奈に気づいたの?」

「……ううん、全然気づかなかった」


いつもは地味な眼鏡女の私。
亜樹の手で変身させてもらわなかったら、絶対に声を掛けられなかっただろう。


「名乗らなかったの?」

「名乗れないよ。あんなパーティーに出られるような資格、私にはないから」

「それじゃ偽名?」


頷きながら「身分も」と付け加えた。
運転手付きの車があるような素振りをしてしまった。
その上、高級マンションに住んでいることにまで。


「でも会う約束したんでしょ? これからどうするの?」


力なく首を横に振った。
どうしたらいいのか、私の方こそ教えてほしい。

夢見心地の誘惑に負けて、連絡先をもらってしまった。
私のナンバーを教えたわけではないから、こちらからかけなければ永遠に繋がることはないのだけど。

別れ際のキスを思い出しただけで、脈が速まる。
あまりにドクンドクンと鼓動が打つものだから、宥めるために胸にそっと手を当てた。

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