秘密の交換をしよう
· · 遥真視点· ·
俺が十歳になったときには、家庭内に会話なんてなかった。
誰かが口を開けば、すぐに喧嘩。
家庭内暴力がなかっただけ、ましだったのかもしれない。
そんなある日、父親が一枚の紙を出した。
「もう限界だ。遥真も十歳になったし、いいだろ」
当時の俺は、その紙がなにを意味するものかわかっていなかった。
「そうね。これでアンタの顔を見なくて済むと思ったら清々するわ」
いつもは父親の言葉に全て怒るように答えていたのに、この日だけは喧嘩するような雰囲気ではなかった。
二人が仲良くなってくれたと思ったが、母親の言葉が引っかかった。
『アンタの顔を見なくて済む』
それは、もう二度と会わないと言っているようなものだ。
家族がバラバラになるということ……?
「遥真はお父さんとお母さん、どっちについていく?」
理解出来ていないのに、母親に言われた。
俺は、すぐに選べなかった。
「遥真はお前が育てろ。俺はそんな暇ないんだよ」