secret justice
第26話
「あの、もしかして昨日マックで会っていた女の子のことを木村先輩から間違って聞いたんじゃないんですか?」
「ごめん、その通り。昨日聡美から「従姉妹とか言ってたけど、その場で取り繕った雰囲気がしたから絶対彼女!」って電話で聞いたの。やっぱり聡美の勘違いだったか。ごめんね」
手を合わせて謝ってくる優に真は内心ホッとしながら切り返す。
「いえいえ、全然気にしてませんから大丈夫ですよ」
「ありがとう。で、その女の子は本当に従姉妹だったの? 彼女ではないにしても、従姉妹でもないでしょ? 聡美の観察力は伊達じゃないからね。従姉妹じゃないのはきっと当たってると思うんだけど?」
優は興味津々な表情をしながら鋭くつっこんでくる。
(どうしよう。晶は見知らぬ相手に自分の本名を絶対明かしたりはしないよな。やはり言わない方がいいだろう)
「すいません。彼女のプライバシーにも関わることなんで秘密ということでお願いできませんか?」
「プライバシー、か。それじゃあ仕方ないか。分かった、もう追求しないわ。そのかわり……」
「そのかわり?」
「昨日解決した殺人事件の冒険談を聞かせて。事件の解決に真が一役買ったのは知ってるんだから」
(まずいな、まだ主犯が捕まってないなんて言えないし、この前電気店で適当なことを言ったからな。辻褄合わせが難しいぞ)
「一役買ったというより、実際は何もしてないんで冒険談なんてないんですよ」
「またまたぁ、そう言って隠そうとしてるし。探偵事務所に資料を受け取りに行くって言ってたでしょ? あれからどうなったの?」
「ええっと……」
(どうしよう。言い訳ができない。こんなとき天野さんがいてくれたら)
真は遥がいないことを悔やみながら頭をフル回転させながら言い訳を考える。
「探偵事務所には行きましたよ。そして資料もちゃんと手に入れました」
「ふ~ん。それでその後の展開は?」
「あとの捜査は全部警察が行ったので僕は何もしてないんです。資料の受け取りと受け渡しくらいしか任されてなかったんで」
「ふ~ん。で、それも嘘として、ホントはどこまで捜査に関わっていたの?」
「えっ!?」
「私の目は節穴じゃないの。昨日『sora』に来てたでしょ? 広瀬からちゃんと聞いたんだから」
(やはり頼りにならない女の子だったな。口止めの意味がない。どう切り返そうか)
「事件で亡くなった更科さんのことを調べてたって聞いたけど、何か事件と関わりがあったの?」
「う~ん、実は事件のことについてはあまり話せないんですよ。守秘義務がありますんで」
「そう、でも事件が解決したのならそれにこしたことはないわよね。これで普通の生活に戻れるわけだし」
「ええ、全くです。ここ一週間いろいろあって大変でしたから」
まだ完全に事件は解決していないが真は素でそう思う。
「期末テストも近いし生徒会の総会合もあるし、真には期待してるんだから頭を切り替えて頑張って」
(あ、そういやテスト勉強してないな……)
「はい、前向きに善処します」
真は苦笑いしながら答え、優はニコリとしてうなずく。
(この笑顔を独り占めしている彼氏とは一体誰なんだろうか。気になるなぁ~)
真は思い浮かぶ限りの相手を考える。ちょうどそのとき携帯の着信音が鳴り響いた。
「あ、ごめん。ちょっと電話してくる」
優はベンチから立ち上がり真からちょっと離れた位置で会話をしている。
(謎の彼氏なのだろうか。すっごい気になる。って、気になっても仕方ないことか。鹿島先輩とつき合うくらいの人ならかなり大人の考えを持っている人なんだろうし。久宝さんがいたら調査を頼んでたかも……って、何考えてんだか)
一人自己嫌悪になりながら空を見上げる。そこにはよく晴れた青空が広がっており清々しい気分が胸に広がる。
「お待たせ、真」
空を眺めていてふいに声をかけられた真はちょっとビックリするも、落ち着いて優に向かい合う。
「いえ、大丈夫です。ところで話は終わりました?」
「ああ、それが悪いんだけど今から事務所に行かなきゃならなくなったの。何かトラブっちゃったみたいで」
「そうですか。じゃあ仕方ないですね。急いで行ってあげて下さい」
「うん、ごめん。今日は買い物につき合ってくれてありがとう。また明日ね」
「はい、また」
手を振りながら去って行く優を真も振り返しながら見送る。
(ホント、行動力のある人だな。彼氏がいたのはちょっと残念だけど仕方ないな。そういや事務所って言ってたけどやっぱり本部なんだろうか? ここからだと八雲支部も近いけど……、ん?)
真はベンチの前に立ったまま何かに気がつく。
(ちょっと待てよ。確かあのときはまだ言ってなかったはずだぞ? いや、むしろ今まで一回も言ってない。単なる偶然か? それとも最初から知っていた……)
不意に沸いた疑問に心を乱され、真の表情は一転曇り顔となっていた。