secret justice
第29話
午後一時半。
真と晶は漫画喫茶のパソコンで『sora』のホームページを眺めている。
「前回僕が見たときは勇気さんの素行内容と殺害動機に目がいってて、弔意の深い部分までは気にしてなかったが、よく見るとおかしいな」
真はマウスで掲示板の書き込みを上下させながら名前の欄をチェックする。
「うん、ちょっと変。ここのメンバー全員を整理すると、茶屋本部11人・八雲8人・竜ヶ崎7人・羽ノ矢9人、計35人。そのうち男性が25人、女性が10人。女性の振り分けが茶屋4人、八雲3人、竜ヶ崎1人、羽ノ矢2人。んで、八雲支部に所属している勇気の死について弔意の書き込みをしている女性は、本部の鹿島、八雲の今井・神谷、計3人。対して男性の書き込みは全25人中22人。割合がおかしすぎる」
晶は印刷したsoraの名簿を見ながら女性のデータのみ蛍光ペンでしるしを付けていく。
「鹿島先輩を除き八雲の女性のみ書き込みがあるということは、晶が言ってたように八雲の女性には手を出していないんだろうな」
「裏を返せば他の女には手を出しているか、評判が悪いかのどちらかということだろうけどね」
「八雲の女性で唯一書き込みをしてない早坂っていう大学生に何か話を聞けないだろうか?」
「どこに住んでるかも顔も分からないのにどうやってアポ取るの? 本部の佐々木や棚橋に聞くのにも限界あるよ。受付の女がまず信用ならないみたいだし」
「確かにな」
真はパソコンの画面をボーっと眺めながら考える。
(勇気さんの付き合っている女性を特定できれば、そこから殺害された動機が挙がる可能性は高い。しかし、勇気さんが殺害されたにも拘わらず、事件後彼女らしき人物からの問い合わせもない。普通に考えて大事な人が事件に巻き込まれた場合、何かしらのアクションを起こすはず。天野さんのように身内がいない場合を除き、事件のことで警察に問い合わせたりするのが自然だ。そう考えると勇気さんの付き合っていた女性というのは特定の相手ではなく、複数存在したという可能性がある。けど、そうなると今度は複数も存在している彼女の誰一人もアクションを起こさないのが逆におかしい。誰一人として勇気さんを好 いてなかったとでも言うのだろうか)
真はマウスを再び操作して、鹿島・今井・神谷の書き込みを読む。
鹿島:ボランティア活動に多大に寄与したことを称えます。とても残念な事件に巻き込まれお悔やみ申し上げます。
今井:更科さんには生前はとてもお世話になりました。こんな形で命を奪われたことがすごく残念です。ご冥福をお祈りします。
神谷:とても残念です。犯人が早く捕まってくれることを祈ってます。
事件翌日の書き込みは皆似たような内容だ。黒田が逮捕された後の昨日から今日までの書き込みをもう一回見る。
鹿島:犯人が逮捕され更科さんも安心されてると思います。改めてご冥福をお祈りします。
今井:ホッとしました。更科さん、どうか安らかに。
神谷:逮捕の報道を見てとても安心しました。ご冥福をお祈りします。
(三人ともおかしな書き込み内容じゃないんだよな。犯人が逮捕されたら誰でもこんな内容のコメントになるだろうし。書き込みに何か手がかりがあると思ったが不発っぽいな)
画面を見たまま固まっている真を晶がつついてくる。
「ね、こうなったら八雲支部に突撃取材してみる?」
「えっ?」
「よく考えたんだけど、本部は鹿島とか佐々木とかに顔割れてるしいろいろ問題あるけど、八雲支部ならまだ顔割れてないし永田とかの名前出せばうまく潜入できると思う。三人の女と鹿島に繋がりのある可能性は否定できないから、鹿島に私たちの捜査継続がバレる危険はあるけど、このままでは全く手がかりが掴めないのも事実。黒田のとき程じゃないけど、ある程度危険は冒さなきゃいけない場面かもしれない。鹿島の頭の良さを考えても黒田が昨日逮捕されたばかりの今、捜査が自分に向いてるとはまだ思ってないと思う。油断しているであろう今しか攻め時はない」
晶の目は覚悟を決めている目だ。
「仮に反対しても、きっと晶は無理矢理巻き込むつもりなんだろ? もう慣れたよ。ちょうど今八雲にいるんだし行くか」
「うん」
「それに、さっきずっと黙ってたってことは作戦もとっくに考えてるんだろ?」
「もちろん」
晶は得意のキラースマイルを見せる。
「作戦は八雲支部に向かいながら聞くよ。ボランティア活動が始まる前に急いで行こう」
「ラジャ!」
晶は冗談っぽく敬礼をしてから席を立つ。真は念のためパソコンの閲覧記録を消してから晶の後を追った。