secret justice
第3話
現在、机にうつ伏せになっている状態で真はひたすら思考を巡らしていた。
(本物の幽霊に取り憑かれてしまったらしい。現状から考えて、あの現場で亡くなった身元不明の女性とみて間違いないだろう。現場となった一家の名は確か更科だったから一致しない。年齢も警察が発表していた遺体の年齢の範囲に当てはまる。くそっ、こんなことになるなんて興味本位で行くんじゃなかったな)
後悔しつつチラっと後ろを見ると、のんびり真のベッドでくつろいでいる遥の姿がある。
(夢じゃない。と、なると、なんとかして立ち去ってもらうか、強制的に除霊するかのどっちかだな)
方針を決めると真は意を決して遥に向かう。
「天野さん」
「ん、なに? 真君」
「僕としては、霊に取り憑かれるということはとても迷惑です。僕には学校もあるし勉強もある。プライバシーの侵害にもなる。天野さんの身に起こった出来事は残念なことだと思うし心中は察します。けれど亡くなってしまったものはどうすることもできないし、お坊さんでもない僕が今の天野さんの力になれることもない。諦めて引き上げてくれませんか?」
「ふむ、心中を察する。力になれない、か。じゃあ力になれるようなことなら力を貸してくれるの?」
予想外な切り返しに真は焦る。
「えっ、まあ、内容と僕にできることなら」
「じゃあ、すばり言うけど。犯人を捕まえて!」
(そうきたか、いや、むしろ当然と言える)
「僕は平凡な学生なんです。犯人を捕まえるなんて難しくて危険なことはできないし、そんな余裕はありませんよ」
「じゃあ、協力してくれるまで取り憑くわ」
「なら僕としてはお寺に行って除霊して貰うまでです」
「お寺に近づいたら離れて、帰宅したらまた憑くだけよ? 毎晩毎晩眠れないように耳元で恨みつらみを聞かすかもよ?」
(質の悪い霊ってこういうのを言うんだろうなあ、仕方ない何か他の手段を考えるか……)
遥はしばらくこちらを見つめた後にニヤっとする。真の考えが手詰まりだと悟ったらしい。
「協力してくれたらお姉さんがデートしてあげてもいいのになぁ~」
ニヤニヤしながら言う遥に、真は冷めた視線を向ける。
「幽霊とデートって、周りの人に僕の頭が変になったのかと思われるよ。さっき帰宅したとき天野さんの姿が朱音に見えてなかったってことは天野さんは僕にしか見えない。そうでしょ?」
「わっ、なかなか鋭いじゃない。ま、半分正解で半分はハズレってとこかな。」
「半分?」
「そ、朱音ちゃんには見えなかったんじゃなく、私が見えないように消えた上で真君と一緒に入ってきたの。その状態だと霊感の強い人でもなかなか見破られない。今は真君に取り憑いてるから、私から意識して見えないようにしない限り真君には見え続ける」
「ん? ごめん、ちょっと分かりにくいから、質問をしながら要点を紙に書いてまとめたいんだけどいいかな?」
そう言うと真はメモ用紙を一枚取り出し要点を書き出し始める。
【霊の特徴】
・通常の状態(この状態を1とする)では、常に憑依者に見え、声も聞こえる
・1のとき、憑依者に見えないようにするには霊が意識して消えなければならない。声は聞こえる。(この状態を2とする)
・1のとき、霊感の強い人の対しては見えることもあるし声を聞き取られることもある
・2のときは、霊感の強い人にもまず見られることはなく、声なども聞き取られることはない
「と、こんな感じで間違ってないかな?」
「うんうん、そんな感じ」
机の上でテキパキ要点を書いてまとめる真を遥は感心しきりに見る。 真はすぐ横にいる遥を見ているが、彼女が幽霊だなんてとても思えない。
よくある映画のように透明だったりぼやけたりもせず、普通に生きていて存在しているように見える。手を伸ばせば触れることができるのではと思わんばかりだ。 視線に気づいたのか遥が真を見る。
「どうかした?」
「あ、いや、そうそう、何で朱音の前で状態2を使ったのか疑問に思ったんだ。今の状態1でも朱音には見えないはずですよね?」
「そうね。でも1の状態だと真君には見えるということになる。その状態で朱音ちゃんと鉢合わせしちゃってたら困るのは真君だったはずよ」
「なるほど、少しは僕に気を遣ってくれたわけだ」
「それもあるし、朱音ちゃんは真君の実の妹さんでしょ? 波長が合って状態1でも見える可能性が高いと思って念のため状態2になってたのよ」
「へえ、実はよく考えて行動してるんだ」
「ちょっと真君? 人をバカ扱いしないでくれる?」
遥は真の顔をのぞき込む。
「あっ、ごめん」
「で、他に質問は?」
「ん~、まだいろいろ聞きたいんだけど……」
真は壁に掛かっている時計に目をやる。針は深夜二時を少し回ったところを差している。
「あ、真君、学校あるんだ。ごめん、もう寝ていいよ」
「お言葉に甘えて寝たいんだけど、寝てる間に変なことしませんよね? 体乗っ取るとか」
「そんなことする訳ないでしょ。これからお世話になろうとしてる人に」
「あと、寝てる間もずっと傍にいないとダメなのかな? ずっと見られていると緊張して寝れないから」
「じゃあ、就寝中は状態2で部屋の外に出てるわ。状態1だと朱音ちゃんに見られる可能性があるし。それでいい?」
「ありがとう。まだたくさん聞きたいことがあるけど、もう寝るよ」
「分かったわ。おやすみ真君」
「おやすみ、天野さん」
そういうと遥はさっさと部屋のドアに向かい、ドアを開けないまま外に消えて行く。
「やっぱ、本物の幽霊か……」
真は現状を再認識し、ため息を一つ吐いてベッドで横になる。
(これからどうなるんだろうか。幽霊がいるいないなんて言ってるレベルの話ではないし、やはり一番てっとり早い解決法は天野さんの願いを叶えることになるのか。しかし、今日はもう何も考えずに寝よう……)
もやもやすることだらけだが睡魔には敵わず、部屋の照明を落として目を閉じた。