secret justice
第30話
午後二時。
真と晶は八雲支部の見えるちょっと離れた建物から状況を観察している。八雲支部も本部と同じような雑居ビルの一階に有り、全然目立っていない。
「永田はいないにせよ、リーダーの棚橋はもう中にいる可能性があるから気をつけないとね。世間では事件は解決してると思ってるから、あたしたちが未だに勇気をかぎ回ってると不自然だし」
「棚橋さんが居たら生徒会レポートバージョン、居なければ作戦通りで大丈夫だろ」
「多分ね。とにかく、当たって砕けろだ!」
晶は颯爽とビルに歩き出す。
「砕けちゃまずいんだけどな」
真は戸惑いながら晶の後ろについて行く。
入り口の前まで来ると八雲支部と書かれた木製プレートの付いている扉を真はノックする。扉のすりガラスから蛍光灯の明かりが漏れていて誰かがいることは外からでも分かる。 すりガラスに人影が映ると同時に女性の声がして扉が開く。
「おまたせしました。何かご用ですか?」
八雲支部の女性は全員大学生というデータはあったが、出てきた女性に真は内心ビックリした。背は真はよりかなり大きい。棚橋も同じくらいの身長でレスラーのようなガタイをしていたが、この女性はまるでモデルのような体型だ。真は気圧されないようにしっかり話を始める。
「初めまして。僕たち先日永田さんから『sora』の活動内容を聞いて興味を持った茶屋高の生徒会員です。今日は実際活動する曜日だと聞いてアポはないんですが見学に来ました」
隣の晶が会釈をする。
「あら、それはそれは。こちらとしては大歓迎よ。まだみんな揃ってないけどすぐ来ると思うから中にどうぞ」
女性は優しい笑顔で中に誘う。スタイルと背の高さから女優の松嶋菜々子にどことなく似ている。 真と晶は棚橋が居ないことを祈りながら事務所の中に入る。
事務所は思ったより広く、十五畳くらいのワンフロアでロッカーやデスク、事務用品がこざっぱりと並んでいた。ここのボランティア活動には道具ほとんど必要ないのだろう。
ボランティア事務所には似合わない真っ赤なソファには女性がもう一人座っていて雑誌を読んでいる。どうやら今は二人しかいないようで好都合だ。
「キョウ、見学の方がお見えよ」
キョウと呼ばれた女性は二人に気づき立ち上がると近づいてくる。キョウは黒髪の松嶋菜々子と違い今時の若者っぽく茶髪だ。芸能人で例えると大塚愛と言ったところだろうか。
「んんん~二人とも若いなぁ。私は今井京花(いまいきょうか)あなた達は?」
「僕は草加真と言います」
「私は久我晶子です」
「あ、私は早坂幸(はやさかさち)です」
松嶋菜々子こと幸がキッチンから手を振る。
「立ち話もなんだからソファにどうぞ」
京花がソファセットに二人を誘う。幸は二人のためにお茶を入れているようだ。
「お二人はどこでここのことを知ったの?」
(いきなりこの質問がきたか。しかし先に鹿島先輩とのことをはっきりさせないと詳しいことは言えない)
「『sora』のボランティア活動は前々からよくお見かけしてて気にはなってたんです。そこで隣にいる久我にたまたま『sora』で活動している知り合いがいるということで紹介してもらい。今日見学に来たんです」
「知り合いって?」
「永田君みたいよ。はいどうぞ」
幸は京花に割り込んで二人にお茶を進めてくる。
「永田かぁ。永田元気だった?」
「いえ、あまり元気ではなかったです。永田さん自身がおっしゃってたように、最近あった事件のことがまだ尾を引いてるみたいでした」
事件という言葉を聞いた一瞬、京花と幸は違う反応をする。 京花はやっぱりという反応だったが幸は一瞬だが体が強ばった。真も晶も当然それを見逃してはいない。
「やっぱまだショックよね~。週に数回しか会わない私たちだってショックだったもん。友達同士なら立ち直るの大変だよね~」
京花は一人うなずきながら納得している。一方幸は話には触れずパソコンの画面に向かっている。
(やはり早坂さんが何か握ってるな。後は鹿島先輩と繋がっていないかを聞き出す)
「あの~すいません。トイレはどこにありますか?」
晶は作戦通り京花に聞く。
「トイレはロッカーの裏よ」
「えっ、どの辺りなんです?」
晶は敢えて分からないようなフリをする。
「案内するから着いてきて」
京花は丁寧にロッカーの裏に案内する。晶はその途中にもポスターの書き込み内容の質問をして時間稼ぎをしている。