secret justice
第31話
(あの位置からなら聞こえないな。よし!)
「早坂さん? 早坂さんはここに来られて長いんですか?」
幸はパソコン作業を止めてこっちを向く。
「うん、長いと言えば長いかな。二年くらいになるから」
「それだけ長かったら近いうちリーダーに抜擢されるかもしれませんね」
「ありがとう。でも私はリーダーって柄じゃないわ。リーダーの誘いはあったけど何かと大変だしね」
幸はそう言って明るい笑顔を見せる。
「確かにリーダーって大変そうですよね。先日本部へ取材に行ったときもリーダー会議をしていたらしく詳しい話を聞けませんでしたからね」
「毎週土曜日は本部でリーダー会議があるのよ。運営上必要だとは思うけど、毎週はちょっと、ね」
「ボランティアは自分のできる範囲行うのが本質ですからね。早坂さんは本部に行かれたことはあるんですか?」
「あるわよ。初めてここに入るときに説明を受けに一度行ったきりだけどね。どうして?」
「実は最近知ったんですけど僕の学校の知っている人が本部のメンバーって噂があるんです。先日本部に寄ったときは見かけなかったし、それで本当かなぁと思って」
「何ていう名前の人?」
「鹿島って人なんですけど」
幸をよく観察するが鹿島という名前には反応しない。
「鹿島、いたようないないような。ちょっと待って」
パソコンの画面に向かいホームページを見る幸を真はじっと観察する。
「あ、いるみたい! 鹿島優。茶屋高ってことは間違いなく草加君と同じ高校ね」
(この反応だと本当に鹿島先輩とは面識がないようだな。晶の時間稼ぎもそろそろ限界だろうしあまりもたもたしてられない。どうにか連れ出してみるか……)
「あ、やはり鹿島先輩いましたか。今度学校で会ったら『sora』での活動とか本人にいろいろ聞いてみます。調べてもらってありがとうございました」
「いえいえ、草加君は礼儀正しいのね。草加君みたいな人がボランティア活動のリーダーにうってつけかもね」
「いえ、僕は先頭に立って動くタイプじゃないですよ。そう言えば、永田さんもリーダーより現場や裏方で動きたいタイプだと言ってましたね」
「ああ、彼なら言いそうな発言ね。永田君も先頭に立って指揮を取るより、現場で動くのが好き見たいだし」
「永田さんの親友だった更科さんもやっぱり素晴らしい人だったんですよね?」
更科という言葉に幸は少し目を虚ろにする。
(やはり何かあるな)
「ええ、更科君もいい人だったわ……」
「そうですか」
幸は明らかにこの話を避けており、真は攻め時と判断した。
(一気に攻めてみるか)
「僕の知っている限りでは、更科さんに関してあまりいい噂を聞かないんですけど。ここでは違うんですかね?」
真のセリフに幸は明らかに動揺する。
「ど、どういう意味?」
「時間がないので単刀直入に言います。事務所の見学は名目で、僕たちは更科さん一家殺害事件とは別に、更科勇気さんが起こしていた犯罪について調べています」
真のセリフを聞いた瞬間に幸の顔色が変わる。
「ここでは今井さんもいますし、詳しい話は外で話しませんか?」
幸は無言で頷くものの、表情はうってかわって虚ろだ。
「とりあえず今井さんには、活動のシミュレーションとして順路を実際歩いてみせると言って僕たちと一緒に外に出て下さい。もちろん事件や僕のことについては一切話さないで下さい」
「分かったわ……」
幸は全く抵抗することなく素直に従い、何か重大なことを抱えているように見える。
「あの、これだけはあらかじめ言っておきますけど。僕も久我もあなたに危害を加えるつもりも不利益を与えるつもりも全くないので、その点だけは信じて下さい。僕たちはあくまで事件の真実を追求しているだけですから」
真はどぎまぎしている幸に気を遣い、言われた本人も少し落ち着いた顔をする。
「うん、草加君は悪い人には見えないし信じるわ。けど、あなた達は一体何者なの?」
「僕は……」
真が答えようとするところにちょうど晶と京花が帰って来る。晶は真と幸の雰囲気を察知して事が作戦通りに進んでいることを理解する。
「今、草加君と話してたんだけど、実際に外を歩いて活動内容を説明しようと思うの。みんなが集まるまでにはまだ時間もあるし」
幸は真の提案通りのセリフを京花に話す。
「ん。了解。じゃあ私は大人しく留守番してるわ。二人とも気をつけて行って来てね」
「ありがとうございます。じゃあ早坂さんお願いします」
「ええ」
真と晶は見送る京花に頭を下げて幸の後を付いて行く。晶は京花に見えないよう真に作戦成功の確認のウインクを送った。