secret justice
第32話
午後二時半。真と晶と幸の三人は事務所から離れた小さな公園のベンチに並んで座っている。 ベンチはちょうど木陰になっていて通りからも見えない。つっこんだ話をするには悪くない場所だ。事務所を出てからずっと黙っていた晶がやっと口を開く。
「それでは早速早坂さんにお聞きします。早坂さんも被害者ですね?」
(最初からカマかけ全開だな)
真は内心ハラハラしながら事の成り行きを見守る。晶の質問に幸は黙ったままうなずく。
「警察には行かれないんですか?」
晶は分かっているフリをしながら具体的な内容を引きだそうとする。
「警察には行ってないわ」
「なぜ?」
「それは……」
そう口ごもりながら、幸はなぜか真を見る。晶もつられて真を見るが、しばらくして何かを悟ったのか手で虫を追いやるようにシッシッと追いやる。
「ちょっと席外して!」
晶は怒りながら真を席から追い出す。真はしぶしぶ離れた位置から二人を眺める。 何を話しているのかは分からないが、幸の辛そうな表情から相当つっこんだ話をしているのだろう――――
――十分後、泣きながら二人に会釈をして幸だけがベンチを後にする。真は小走りで晶に近寄り何を話していたかを聞く。
「早坂さん、泣いてみたいだけど何を話してたんだ?」
晶の顔を見ると珍しく厳しい表情をしている。
「大丈夫か?晶」
「大丈夫」
「あんまり大丈夫そうに見えないけどな。今更一人で問題を抱えるなよ?」
真は真剣な表情で晶を心配する。晶はそれに気づいたのか笑顔を見せる。
「分かってるよ。これからの作戦を考えてただけだから」
「早坂さん、なんだって?」
「……」
晶は真の質問に答えない。
「おいおい。何でだんまりなんだよ。もう僕は必要ないとでもいうのか?」
「ううん。事件を解決させるのには真の存在は絶対に必要だよ。ただ…」
「ただ?」
「悲しい結末になると思う」
晶は今まで見せたことのない寂しい顔をする。
「晶?」
「真の気持ちは分かるよ。今まで解決に向けて頑張ってきたんだし。でも、早坂から聞いた話をあたしが話すことはできないの。話していいのは本人と鹿島だけど思う」
「ごめん晶。何がなんだか僕には分からない。晶が話せないとというのなら、それはきっと深い意味があるのだろうから敢えて聞かない。晶は正義の塊みたいなヤツだって分かってるしな。でも、事件はどうなるんだ?」
「事件は解決したよ。早坂の話ですべて繋がった」
「解決って、でも繋がった理由は話せないんだろ?」
「うん。あたしには話す権利がないの」
「……これから、どうするんだ?」
「鹿島と会って、事件を終わらせる。それがあたしたちの正義、でしょ?」
「ああ、でも証拠はどうするんだ?」
「証拠は必要ないよ。でも大丈夫、心配しなくても鹿島は自供するよ」
「う~ん、訳が分からない。今の僕にできることはあるのか?」
「あるよ。すごく大事な役がね。じゃ、鹿島のとこに行こ」
晶は自分の方から真の手を握って駅に向かう。真はいつもと様子の違う晶に戸惑いながら駅への遊歩道を歩いていた。