secret justice
第6話
放課後、進学クラスは普通クラスと違い日々の授業数が一つ多く、七時限目まである。当然放課後も普通クラスの生徒とは異なり、部活動をしている生徒にとってはマイナスだ。
そんな中、活動の開始時間を7時限目終了時に設定しているのは生徒会くらいのもので、それだけ敷居の高い場所と言える。
しかし、高い敷居に見合う環境が整備されているのも見逃せない。生徒会室は図書室の隣にあり、専用のパソコンや周辺機器が完備されている。エアコン・テレビ・ビデオ・DVD・冷蔵庫などもあり、校内における唯一の楽園とまで揶揄されることもある。
月に一回ある生徒会総会合以外は原則毎日生徒会室に出る必要はない。しかし、勉強をする環境や利便性の為、用がなくとも毎日顔を出す役員も少なくない。真も放課後になると必ずここへ来るようにし、他の生徒との交流を図る。
七時限目が終わり生徒会室に入ると、いつも必ず来ている顔ぶれが今日は揃っていないことに気が付く。生徒会の中には四つの重要な役職と、通常役員があり、合計十一人で構成され、それぞれの役割がある。
重要な役員は、生徒会の代表であり対外的な業務のすべてを執行する会長。会長の補佐または代理の副会長。
生徒会の運営を監視する監査役。生徒会の資金管理をする会計役。議事録等をまとめる書記。全般の実行役の庶務。 真は庶務という立場ではあるが、その冷静かつ的確な判断力から頼りにされていた。
「お疲れ様です」
挨拶をしながら入ると部屋にいる全員から挨拶が返ってくる。本日出席しているのは副会長、監査役、通常役員の計三人のようだ。
「今日は会長がいないんですね」
「会長は深山とデート中~」
二年生の木村聡美(きむらさとみ)が茶化しながら口を開く。メガネをかけ少しぽっちゃりした明るい女の子で、生徒会でもムードメーカーとなっている。
「会計役と一緒ってことは、また予算の掛け合いに行ったってことですね」
「そういうこと。大変な仕事よ」
真に続き優がフォローを入れる。
「秋の予算を夏休み前に出しとかないといけないだろ? ただでさえ大変な時期なのに会長も深山君もよくやってるよ」
三年生の監査役佐々木もそれに同調する。佐々木もメガネをかけており、いかにも秀才といった雰囲気をもった好青年だ。
「な~によ、これじゃあ茶化したあたしが悪者みたいじゃん」
真面目な意見に囲まれ聡美が文句を言い出す。
「聡美~、茶化すのはいいけど、こんなことが会長の耳に入ったら怒られるよ? 会長生真面目で冗談通じないの知ってるでしょ?」
優はクラスメートで親友でもある木村を諭す。
「知ってますよ。この前コーラーを買ってきて『会長、このコーラーは新製品なんでよく振って飲んで下さいね』って言ったら本気にして大爆発」
「そして、木村君は大目玉だったな」
佐々木は冷静に突っ込む。
「そ、ゲンコツ落とし一発。ゲンコツ落としくらうのなんて幼稚園の頃おじいちゃんの盆栽をたき火に放り込んだ以来だったわよ。ホント少しは疑うとか融通を持ってほしいわよ。あっ、この話は内密に」
聡美は手を合わせ、その姿に周りの生徒は笑う。この聡美の明るさや出てくる奇抜なアイデアは生徒会において重要視されている。
「今度昼食おごりよ、聡美」
「わっ! キツイ、ジャンヌ何気によく食べるし……」
ジャンヌとは、かの女英雄ジャンヌ・ダルクから取ったあだ名で、優の強引なまでの行動力、力強さ、皆を引っ張るカリスマ性、これらの特徴から与えられた彼女への勲章だ。
「学食のスペシャル定食で勘弁してあげるよ」
「とほほ……」
「あ、そうだ。草加君、来て早々悪いけど私と付き合ってくれる?」
「ギャー! ジャンヌ爆弾発言! 判明! ジャンヌは年下キラーだった! 明日の校内はこの話題で持ちきり」
「聡美~、会長のゲンコツ落としと、スペシャル定食×2とどっちがいい?」
「ごめんなさい! もう言いません! 調子に乗りすぎました! はい!」
二人のやりとりにあまり笑わない佐々木も含み笑いをしている。
「全くもう……、あ、草加君ごめん。で、用件だけど、生徒会室の消耗品と電気店に注文していた新しいデジカメの受け取りに着いてきてほしいんだけど、いいかな?」
「ええ、大丈夫ですよ。じゃあ暗くならないうちに買いに行きましょう」
「ありがとう。お金は深山から預かっておいたからすぐ払えるわ。じゃ、早速行きましょう。聡美、佐々木先輩を困らせちゃダメよ」
優は部屋を出る前に念を押す。
「な~によそれ。私はジャンヌの子供じゃないんですからね。そんなこと言われなくても大丈夫ですよーだ! ジャンヌこそ草加君がカッコイイからって変なことしちゃダメだぞ~」
「聡美!」
「うわ! 本気で怒った…、助けて、佐々木先輩~」
聡美は佐々木の後ろに隠れる。
「ま、まぁ、今日のところは用事がある訳だし、草加君の言うように暗くならないうちに買い出しに行った方がいいよ、鹿島君」
「……分かりました。聡美、帰ってきたら覚えてなさいよ~」
優は睨みながら生徒会室を後にし、聡美は蛇に睨まれた蛙のごとくビクビクしていた。