ここからはじまる恋

「紗良!」

お父さんが、家の前で待ちかまえていた。そんなにライバル歯科医院が気になるのかな?

「ただいま」

「おかえり。家で母さんが昼ごはんを作って待っているから」

『おかえりなさい』

先ほどの甘い声が耳に響くと、頰が緩んだ。

一階が歯科医院、二階が自宅の我が家に入ると、腹の虫が踊り出すような、おいしいにおいがした。

今日のお昼は、オムライスだ。いくつになってもお母さんのオムライスは変わらずおいしい。

「どうだった?」

お父さんが珍しく、落ち着きなく聞いてきた。思わず、笑みが漏れる。

「紗良が笑うくらい、素敵な先生だったのか?」

「えっ? 先生は……無愛想で、なんだか印象がよくなかったな」

私の答えに、ふたりが顔を見合わせた。

「じゃあ、その笑顔の理由は?」

今度は、お母さんからの質問。

「ふふっ……受付の男性が……すっごく素敵で……」

「受付の男性?」

お父さんが眉をひそめた。

「ああ、ごめん、ごめん。私、スパイで行ったのに……受付の男性に心を奪われちゃった」

緩む頬を隠しもしないで、打ち明けた。

「そんなに素敵な人なの?」

お母さんは笑顔で、お父さんは少し不機嫌な顔をした。

「もう、素敵もなにも! ものすごく私のタイプの男性だったの!」




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