ここからはじまる恋
エレベーターで地上に出ると、なにやら見覚えのあるエントランス……。

「あっ……!」

もしかして、ここは‘‘B.C. square TOKYO’’!? 気がついて、思わず声をあげた。

「やっと気がつきましたか……」

ボソッとつぶやいた、新庄先生。

「はぁ……」

それじゃあ、さっきの部屋は、高層階にあるホテル? このビルに、人が住めるような部屋はないもんね……。

「ありがとうございました」

‘‘B.C. square TOKYO’’から一歩、外に出ると、前を行く新庄先生にお礼を言った。足を止めて新庄先生が振り向く。

「送ります」

「いえ! すぐそこですから」

「すぐそこなら、なおさら」

そう言うと、また歩き出す新庄先生。自宅の場所も教えていないのに、なぜか家まで送り届けてくれた。

「紗良!」

まだインターフォンを鳴らしていないのに、中からお父さんが飛び出して、私の名前を呼んだ。

「お父さん! あの、これには深い訳があって……」

「新庄先生、ご迷惑をおかけして、すみませんでした」

私の言い訳をかき消すようにして、お父さんが新庄先生を見るなり、謝った。

「こちらこそ」

新庄先生は言葉少なに、家を後にした。連絡もなく朝帰りをして、心配していると思ったのに。怒られると思ったのに。

新庄先生の後ろ姿を見送りながら、なぜだか、お父さんは笑っていた。


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