ここからはじまる恋
それと、両親の笑顔。いくら連絡があったとはいえ、普通、朝帰りをした娘を怒るし、朝帰りをさせた相手にも怒るでしょうよ?

水面下でなにか、起きている? そう勘ぐってしまう……。

「お父さん、新庄先生のこと『知らない』って、言ってなかったっけ?」

新庄先生が朝帰りをさせたことを両親が
よろこんでいるように感じたのは、私だけ? でも、どうしてよろこぶ必要があるのか?

「ああ。彼のことは、知らないよ」

「『彼のことは』って……」

そのひと言が、妙に引っかかる。小首を傾げながら、少し冷めたコーヒーを口にした。

「新庄先生は、どんな人なんだ?」

「……は?」

目の前のコーヒーよりも冷めた口調で、聞き返した。

「昨日はふたりで飲んで、その後、世話になったんだろ?」

「ふたりで飲んでいないし!」

どうして私が、新庄先生と飲みに行かなきゃならないの? まだ二度しか会っていないし、無愛想な新庄先生とはほとんど口をきいたこともない。

「ねぇ、ふたりとも。なにか誤解していない?」

どこかでねじれたなにかを、元に戻す必要があった。

「誤解? 新庄先生と結婚を前提にお付き合いするつもりじゃないのか?」

新庄先生と……結婚を前提にお付き合い!? どうして……?

「お父さん、冷静になろう? 話がおかしい」

二日酔いの、重い頭をフル回転させる。新庄先生のこと、なにも知らないのに。結婚だとか、お付き合いだとか……。

「新庄先生の歯科に行ったとき、何事もなかったように言っていたけれど、後日、誘われたんだろう?」

いやいやいや。なにをおっしゃいますやら。歯のクリーニングに来た患者を、いきなり誘う歯科医なんて、いますか?


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