ここからはじまる恋
恋の罠

いろいろあった休日が終わり、またいつもの一日が始まった。

近くにライバル歯科医院ができた……とはいえ、急に患者数が減ることはなかった。

ただ、心なしか、夜の診察時間の患者数が減った気がするけれど。王子様のような受付に、彫刻のように美しい歯科医がいる歯科医院に、OLが流れるのも無理がない。

「お大事になさってください」

私にできるのは、暗いイメージがある歯科医院を、明るく、通いやすい場所にすること。今日も惜しみない笑顔で迎え入れ、見送る。

午前の受付が終わる頃、電話がなった。『受付時間を過ぎるかもしれないですが、診てもらえませんか?』そんな電話はよくあること。

「はい。鶴岡歯科医院です」

『鶴岡紗良さんですか?』

その声に、思わず息を飲んだ。相手の名前は、聞かなくても見当がついた。ただ、どうして電話をくれたのか、見当がつかなかった。

「はい」

冷静を装い、返事をしたけれど……。心臓が飛び出す勢いで、どくどくと鳴り響く。

『新庄です。今、お電話大丈夫ですか?』

「はい」

『午前の診療は、何時までですか?』

「十二時です」

『あ、うちと同じですね。もし、よければランチに行きませんか? 先日のお詫びがしたくて』

お詫びって、飲ませ過ぎたお詫び? ああ、お酒に弱くてよかった……と思いながら、「わかりました」と短く返事をした。

『ありがとうございます。では、十二時半に、‘‘B.C. square TOKYO’’でお待ちしています』

「わかりました」

電話をきったあとも、優しい声が耳に響いた。でも、まだ診察時間内。緩む頬をなんとかごまかしながら、仕事を続けた。

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