ここからはじまる恋

「紗良さんは、この近辺が地元なんですね」

上品にスープパスタを口にしながら、空さんが言った。

「はい」

あー。今さらながら緊張する。そして、ペスカトーレを注文してしまったことに後悔した。魚介が微妙に食べにくいよ！

「この近辺でおすすめの店は、ありますか？ 僕は、仕事でしか来ないから」

「おすすめの店……」

食べる手を止めて、天を仰いだ。私の行く店は、こんなおしゃれじゃないんだけれど……。

「あ、すみません。紗良さんを困らせてしまって」

すぐに私の様子を察した空さんが、申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「今すぐ教えて欲しいわけじゃなくて。なんて言うのかな、その……」

空さんの、優しくも鋭い視線に捕まり、息が止まりそうになるくらい、苦しい。

「あなたに会うための口実です」