ここからはじまる恋
「今日は、ありがとうございました。ごちそうさまでした」
店を出て、エレベーターに乗る前に、丁寧にお礼を言った。
「いいえ。その笑顔に会えるのなら、いくらでもごちそうしますよ?」
「……空さん」
本当に? 本当にそんなふうに、思ってくれているの? 白馬に乗った王子様のような、理想の男性である空さんからのうれしいひと言は、私の心に響いた。
大きなエレベーターは、ランチを済ませた人たちがたくさん乗り込んだ。私たちは、エレベーターの隅に追いやられた。
近いっ! 空さんが近くて、息が止まりそう……。シャープな輪郭、スッと通った鼻筋。小柄な空さんの顔は、視線をあげるとすぐそばにあった。
それだけでも、鼓動が早くなるのに。下に下ろした私の手を、大きな手が握っている。
空さんが、私の手を握っている……。
長い長い沈黙の後、エレベーターが一階に到着した。そっと手を離されると、めまいがしそうなほどの緊張感から解き放たれた。
「……空?」
エレベーターを降りると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ああ、兄さん」
そのときに見せた、空さんの笑顔……。いつもとは、少し違ってみえた。
「では紗良さん、また……」
空さんはきまりが悪いのか、すぐにその場を離れた。私もなんだか、居心地が悪い。新庄先生に軽く会釈をして、離れようとしたときだった。
グッと強く、掴まれた手首。
「空には、気をつけろ」
新庄先生はそれだけ言って手を離すと、エレベーターに乗り込んだ。
先ほどとは違う、胸の鐘の音が鳴り響いた。
店を出て、エレベーターに乗る前に、丁寧にお礼を言った。
「いいえ。その笑顔に会えるのなら、いくらでもごちそうしますよ?」
「……空さん」
本当に? 本当にそんなふうに、思ってくれているの? 白馬に乗った王子様のような、理想の男性である空さんからのうれしいひと言は、私の心に響いた。
大きなエレベーターは、ランチを済ませた人たちがたくさん乗り込んだ。私たちは、エレベーターの隅に追いやられた。
近いっ! 空さんが近くて、息が止まりそう……。シャープな輪郭、スッと通った鼻筋。小柄な空さんの顔は、視線をあげるとすぐそばにあった。
それだけでも、鼓動が早くなるのに。下に下ろした私の手を、大きな手が握っている。
空さんが、私の手を握っている……。
長い長い沈黙の後、エレベーターが一階に到着した。そっと手を離されると、めまいがしそうなほどの緊張感から解き放たれた。
「……空?」
エレベーターを降りると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ああ、兄さん」
そのときに見せた、空さんの笑顔……。いつもとは、少し違ってみえた。
「では紗良さん、また……」
空さんはきまりが悪いのか、すぐにその場を離れた。私もなんだか、居心地が悪い。新庄先生に軽く会釈をして、離れようとしたときだった。
グッと強く、掴まれた手首。
「空には、気をつけろ」
新庄先生はそれだけ言って手を離すと、エレベーターに乗り込んだ。
先ほどとは違う、胸の鐘の音が鳴り響いた。