ここからはじまる恋
恋におちる寸前

家に帰ると、ベッドに飛び込むようにして、寝そべった。

結局、わからないままだったな。あの日の夜のこと……。

鞄から、一枚の名刺を取り出すと、ぼんやりと眺めた。

『空には、気をつけろ』

そう言った新庄先生の声。なんだか怖かった。偶然、新庄先生と遭遇したときの空さんの笑顔、妙にいじわるに見えた。ふたりは、仲が悪いのかもしれない。

新庄先生の忠告は気になるけれど、いくらお見合い相手だったとしても、私の恋路のじゃまをする権利はないんだから。

これから始まりそうな、空さんとの恋の予感に胸を弾ませながら、さっそくメールアドレスを登録した。

『先ほどはごちそうになり、ありがとうございました』

短いメッセージと名前を添えると、メールを送信する。ほどなく、空さんから返信があった。

『こちらこそ。素敵な時間をありがとうございました。また、必ずお誘いします』

「必ず誘ってくれるって!」

そのメッセージを読んで、ひとりでつぶやくと、頬は緩むばかりだ。

新庄先生の忠告なんて、もはや何の意味もなさなかった。

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