ここからはじまる恋
しばらくすると、空さんが新しいカクテルを持って、姿を現した。

「グラタンを作っているので、焼き時間がもう少しかかります」

笑顔でうなずいて、カクテルを受け取る。

「サマー・デ・ライト。意味は……少し早いですが、『夏の喜び』です」

名前の通り、ライムとソーダが爽やかに口の中で弾ける、夏を思わせるカクテルだ。

あれ? ノンアルコールのはずなのに。なんだか酔っているような、心地よい気分。空さんの作るカクテルは、魔法のカクテルなのかもしれない。

「紗良さんは、おいくつですか?」

あ。そういえば、空さんはいくつなんだろう? そう思いながら「二十三です」と答えた。

「あ、僕と同い年だ。ちなみに、今まで何人の男性と付き合ったことがありますか?」

突然、思いもよらない質問をされたせいか、頭がボーッとしてきた……。

「ふたりです」

「ふたりですか。それは楽しみだなぁ」

「楽しみって……?」

どういう意味なの? 空さんの言っている意味が、理解できないよ……。

「かわいい紗良さんが、どんなふうになるのか、今から楽しみってことです」

「どんなふうに……」

ああ。なんだろう? 急に襲ってくる、睡魔。空さんの言葉を反復するのが精いっぱいで……。

ガクッと力が抜けて、カウンター席に座ったまま倒れそうになる私を、空さんが慌てて支えた。

「素敵な夜になりますように」


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