ここからはじまる恋
③
グラスを合わせてみつめ合うと、たまらなく恥ずかしい。なにか、話題がないかと探してみる。
「バーテンダーのお仕事は、長いんですか?」
特別、興味があるわけではない。思いつきで質問した。
「二十歳から、趣味が高じて始めました。当時大学生でしたが、特に進路を考えていなくて。卒業と同時にそのまま、今の店に」
「そうでしたか……」
「よければまた、飲みに来てください。今度は、アルコール度数に気をつけますから」
苦笑いも、絵になる人。もっともっと、空さんを知りたい。
おいしい料理に舌鼓をうちながら、緊張がほぐれていくと、会話が弾んだ。「同い年なんだから」と、タメ口で話すようになった。
「今日は、ありがとう。こんなにおいしい料理、初めてかもしれない」
「本当に? 僕は、何度かこの店に来たことがあるけれど」
私と同い年で、こんな高級レストランで食事ができるだなんて。バーテンダーの仕事は、儲かるのだろうか。空さんにとっては、もはや歯科医院の受付が副業かな? そんなことを思いながら、食後のコーヒーを楽しんでいた。
「今日がいちばん、おいしかった」
真顔でみつめられると、本当に戸惑う。言葉の意味が、すぐに理解できない。
「紗良と一緒だから、ね」
「空さん……」
私がつぶやくように名前を呼ぶと、テーブルに置いた手を握られた。
「お互い『さん』付けは、やめよう? もっと距離を縮めたいな」
「ほ、本当に?」
戸惑う私を見て、小さなため息をつく。
「冗談で、こんな高級レストランに来ないよ。オレの本気に、そろそろ気づいて?」
やっぱり、戸惑いは隠せない。けれど、小さくうなずいていた。
「じゃあ、この後……紗良の時間を、オレにくれないか?」
空だったら、いいよね? 私を大切にしてくれるはず……。笑顔でうなずくと、テーブルの上の手を、もう一度、今度はギュッと握られた。
「バーテンダーのお仕事は、長いんですか?」
特別、興味があるわけではない。思いつきで質問した。
「二十歳から、趣味が高じて始めました。当時大学生でしたが、特に進路を考えていなくて。卒業と同時にそのまま、今の店に」
「そうでしたか……」
「よければまた、飲みに来てください。今度は、アルコール度数に気をつけますから」
苦笑いも、絵になる人。もっともっと、空さんを知りたい。
おいしい料理に舌鼓をうちながら、緊張がほぐれていくと、会話が弾んだ。「同い年なんだから」と、タメ口で話すようになった。
「今日は、ありがとう。こんなにおいしい料理、初めてかもしれない」
「本当に? 僕は、何度かこの店に来たことがあるけれど」
私と同い年で、こんな高級レストランで食事ができるだなんて。バーテンダーの仕事は、儲かるのだろうか。空さんにとっては、もはや歯科医院の受付が副業かな? そんなことを思いながら、食後のコーヒーを楽しんでいた。
「今日がいちばん、おいしかった」
真顔でみつめられると、本当に戸惑う。言葉の意味が、すぐに理解できない。
「紗良と一緒だから、ね」
「空さん……」
私がつぶやくように名前を呼ぶと、テーブルに置いた手を握られた。
「お互い『さん』付けは、やめよう? もっと距離を縮めたいな」
「ほ、本当に?」
戸惑う私を見て、小さなため息をつく。
「冗談で、こんな高級レストランに来ないよ。オレの本気に、そろそろ気づいて?」
やっぱり、戸惑いは隠せない。けれど、小さくうなずいていた。
「じゃあ、この後……紗良の時間を、オレにくれないか?」
空だったら、いいよね? 私を大切にしてくれるはず……。笑顔でうなずくと、テーブルの上の手を、もう一度、今度はギュッと握られた。