ここからはじまる恋
危機

「これから、どこに行くの?」

私の質問に笑顔だけを返すと、黙って駐車場内を歩いた。静かな駐車場に、響く足音。ピタリと止まったその先には、行き先階ボタンのない、エレベーター。

『ひとりでは、帰れないですよ?』

新庄先生の言葉が、耳に響いた。

空が鍵穴に鍵を差し込んで回すと、重い扉がゆっくりと開いた。

「わ、私、帰る!」

危機を感じて、逃げ出そうとしたけれど、グッと手首を掴まれると、強引にエレベーター内に押し込まれた。

「紗良、ひどいよ。オレに時間をくれるんじゃなかったの?」

苦笑いを浮かべながら、優しい声で言った。

「でも……」

今さら、新庄先生の忠告を聞けばよかったと後悔した。このエレベーターは、五十二階にしかいかない。あのフロアは、ホテルのような部屋があるだけ……。

「大丈夫だよ? 紗良がよろこぶようなことを、してあげるだけだから」

「わ、私がよろこぶ、こと?」

怯えた声で聞き返すと、空はただ優しい笑みを浮かべるだけだった。

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