ここからはじまる恋
「紗良がよろこぶようなことを、いっぱいしてあげるね?」

無駄な抵抗を止めた私に、空が優しい声で言った。でも、両手首は押さえつけられたままで、軽い口づけをした。

「かわいいワンピースがシワになるといけないから、優しく脱がせてあげる」

ニッコリと微笑まれると、逆に怖くなった。空に解放されて、ベッドサイドに立った。

油断をしている今がチャンスだと思った。でも、どうやって逃げ出そうか?

「あの……シャワーを浴びたい……」

もじもじしながら言った。もちろん、演技で。自分自身を守るため、怯えている場合ではなかった。

「シャワー? そうだよね、女性は気になるよね……」

優しい声で空が言うと、後ろから私を抱きしめた。

「でも、オレは気にならない。早くひとつになろうよ?」

服の上から胸を触られて、もう逃げられないと思った。でも、きっと逃げられる、隙があるはずだと思う自分もいた。

背後に空がいるのは、不利な状況。

いや? 不利じゃないかもしれない。そう思うより先に、ヒールで思いっきり空の靴を踏むと、部屋から飛び出した。

「痛い! なにしやがるんだ、この!」

そう怒鳴りながら、私を追う。なんとか廊下に出られて、ホッとしたのもつかの間。

鍵がなければ、エレベーターに乗れないことに気がついた。





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