ここからはじまる恋
「いや! 助けて!」

誰もいないのは、わかっている。でも、出せる限りの大きな声で叫んだ。

「うるさい! さぁ、こい!」

手首がちぎれそうなほど、強く掴まれると、元いた部屋へと引きずり込まれそうになった。

「いやー! 助けて……」

泣きながら、大きな声で叫ぶ。こんな、私を愛してもいない人と、結ばれたくはない。

何度も何度も繰り返す。涙で声がかすれても……。

いよいよ部屋の扉が閉まりそうになったとき、誰かがグイッと扉を開いた。

「手荒な真似、するな」

その声に、ハッと息を飲んだ。大きな影に、渋い声……。新庄先生の姿がそこにあった。

「なんだよ……。また兄さんか。こう何度もじゃまをされると、ストーカーかと疑うよ」

「オレのことはいいから。彼女を帰してやれ」

涙目の私と、呆れ顔の新庄先生の視線がぶつかる。

「彼女は、同意の元でここにいるんだ。兄さんにとやかく言われたくないね」

「同意の元の彼女が、どうして泣き叫んでいるんだ?」

冷静な口調、それでいて怒りに満ちた目を空に向ける、新庄先生。

「……わかったよ」

新庄先生の凄みに、空が舌打ちをすると、私の手を離した。そして、私を、新庄先生に押しつけるようにして渡すと、部屋の扉をバタンと閉めた。

力が抜けた私は、廊下にペタンと座り込んだ。


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