ここからはじまる恋
「それに私のこと、好きでもなんでもなかったんですから。関係を持つ前に気がついてよかったです」

私のひと言に、新庄先生は少し寂しげな表情をみせると、冷めてしまったコーヒーをグッと飲み干した。

「弟のことは忘れて、新たな恋をみつけてください」

新庄先生にそんなことを言われるなんて、意外だった。

「ありがとうございます」

とりあえず、お礼を言って立ち上がると、扉へと向かった。私の後ろを、新庄先生が歩く。

私たち、これでおしまいなんだろうか?
新庄先生は、それでいいのだろうか? そう思うと、ドアノブに手をかけたまま、動けなくなった。

「……なにか?」

「私たち、これでおしまいですか?」

背中を向けたまま、思ったことを口にした。

「弟があなたに、無礼なことをしてしまった以上、見合い話は破談です」

「でも、新庄先生は」

言葉の上からかぶせるように言うと、くるりと振り返った。相変わらず無表情な新庄先生をみつめる。

「私を三度も、助けてくれました」

「まぁ……そうですが……」

新庄先生はタイプではないし、無愛想でなにを考えているのか、わからない人だ。

でも、いつでも私を助けてくれる、頼りになる人。新庄先生に落度はないのに、このままお見合いを破談にしてしまうのは、失礼な気がした。

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