メジャースプーンをあげよう
「……上坂くんだってこの前真っ赤になってたくせに」
「あれは忘れて」
「無理です。っていうかむしろあっちの方がかわいかったのに」
「えっ」
フォークが止まったのは上坂くんの番だった。
運ばれてきたミルクレープをいそいそと口に運ぼうとしていたのをやめて、じっと見てくる。
「なんですか?」
「いつきちゃんは可愛い系の年下が好きなの?」
「ちがいます」
「おれ実はけっこう純粋だよ? この前みたいに」
「自分で言うと信憑性が薄れるって知ってる?」
好きでも?
なんて大人びた顔で聞いてくるよりは、この前みたいに顔を赤くしている上坂くんの方が個人的には好きかもしれない。
年下らしいというか。
でもそれはあくまで外側から見ただけの印象であって、私が上坂くんを好きってことじゃない。
(それに上坂くんだって、たぶん)
「……上坂くんのそれはちょっと違うんじゃないかな」
「え?なにが?」
敬語が崩れた自覚はあるけど今は気にしないことにした。
「睦月さんのことがあるから、私のこと好きって言ってるように思える」
「………ナニソレ」
上坂くんのまわりの空気が冷える。
怒るだろうとはわかっていて、それでも思ったままを伝える。
「だってさっき言ったよ。あいつって知らなかった時は私をからかうの好きだったって」
「それが?」
「相手が睦月さんだってわかったら、面白くなくなったんでしょう」
「だから?」
怒りを抑えているのか、上坂くんの声が少し低くなった。
人の気持ちを他人がはかれるなんて思っていない。
でも、上坂くんが私に抱いているのは私が睦月さんに抱いているのとは明らかに違う。