メジャースプーンをあげよう
切れ長で少し垂れたような目。
一見すると冷たそうなそこが、視線が絡まった瞬間だけ和らいだ。
相変わらず緑がかって美しい髪は完璧に決まっていて、その間に指を差しいれてみたいと思う。
(……って、こんな時になに考えてんだか)
「いつきさん?」
(かたいのかなぁ、髪)
(それとも案外やわらかいとか?)
「いつきさん!」
「えっ」
ボリュームは大きくないのにビクッとしたのは声の鋭さのせいだ。
我に返ると、ポットを手にした睦月さんが少し呆れたように眉を顰める。
「仕事中にぼうっとしていては危険ですよ」
「あ……申し訳ありません」
「はい、結構なお返事ですね」
「……子ども扱いされてません?私」
「していませんよ」
「でもその言い方が」
「されていると思うのでしたら、もう少々気を付けることですね」
「……けっこう意地悪ですよね」
「意地っ!?」
こんな風に目をまるくさせる睦月さんを見られるようになったことが、素直に嬉しい。
友人としてさえの付き合いもないままに恋人になった経験がないから、どうしていいのか最初こそわからなくて。
―――上坂くんに「マジになってもいい?」と言われてもう2週間が過ぎた。
これまでと変わったことはない。
今日だって「彼氏がお呼びだよー」なんてふざけて言ってきたから、あれは嘘だったんじゃないかって思ってるくらいだ。
(からかうなよ大人を……)
「いつきさん」
「あ、はい?」
「今夜のことなんですが」
「あっ、すごく楽しみにしてきました」
「それは良かった」
昨日の夜電話で話した時、「明日は金曜日だから」とバーに誘われている。
先週は私がよく行く居酒屋に一緒に行った。
(……帰らなくてもかまわなかったんだけど)
最寄駅までキッチリ送ってくれた睦月さんとは、何もしないで別れた。