メジャースプーンをあげよう
夜景に照らされている睦月さんの顔は、いつもよりグッと男っぽい。
仕事中は鉄壁なくらい無表情なのに、少しずつそれが崩れてきて、お酒が入っているのと伏見さんのおかげなのか感情がわかりやすく見える。
(かわいいしカッコイイし…)
(心臓もたない)
座りましょうと手を取ってくれるところまで、いちいち格好いい。
「いつきさん、夜景のあかりだけでもわかるくらい真っ赤ですよ」
「……赤くもなりますよ」
「たいへん結構です」
そう言った睦月さんは頬杖をついて、私に笑いかけた。
こんな風に笑うのはまだまだ珍しい方で、初めて見た瞬間恋におちたこの顔に特に弱い。
「睦月さん酔ってるでしょう」
「いいえ」
「絶対酔ってる」
無造作においていた手がギュっと握られた。
「酔ってる事にしておいてもいいです」
「なんですかそれ」
「だから酔っぱらいの戯言だと思って流してください」
「……?」
握られた手に力が増す。
私を見る目に、険しさと不安が混じる。
「……最近いつきさんが心ここにあらずだったのは…あの子のせいですか」
「……えっ」
(あの子って)
「上坂くん…ですか」
「……先日偶然会いまして」
「はっ!?」
睦月さんは目を逸らさない。
それどころか少しずつ距離をつめて、私の耳に唇が触れそうになっている。
「まさかケンカ…」
「いえ、していません。でも……」
「でも?」
「……いつきちゃんって耳弱いの知ってる?…と」
そして耳にふっと息をふきかけられた。
「ひゃっ?」
びっくりして右耳をおさえて睦月さんを見る。
怖い。正直、初めて見る睦月さんで、怖い。