メジャースプーンをあげよう
「先ほどの反応でもわかりましたが……やはり事実のようですね」
おさえている私の手にそっと触れて、外す。
また睦月さんの唇が耳に近付き――軽く噛んだ。
「……っ!」
「こんなことを、なぜ彼が知っているんです?」
耳元でささやかれる声は聞いたことないくらい低く、でもお酒のせいか息が熱っぽい。
「ちが、違います睦月さん誤解です」
「……何が?」
「えっとあの耳に軽くキスされたことはありますけど不意打ちだったし合意でもないです」
句読点を入れず、息と一緒に一気に吐ききった。
私の耳で遊んでいた唇はぴたりと止まり、そろそろと顔を覗きこまれた。
ここで目を逸らしたら信じてもらえない。嘘は吐いてない。
言いたくなかったけど、変に誤解をされるままよりはマシだから。
「……そうですか」
ハ、と小さく息を吐いた睦月さんは、テーブルに両肘をついたと思ったら両手で顔を覆う。
「睦月さん?」
「……申し訳ない。許容の狭さを露呈しそうです」
「え? は?」
「言われた時、俺を挑発するための嘘だろうと思っていたんです。でもすぐわかる嘘を吐くような子でもないことを俺は知っていますから」
意外なところで睦月さんの上坂くんに対する評価を知った。
「……ごめんなさい、黙ってて。睦月さんには誤解されたくなかったんです」
「…いえ…正直に言ってくれて嬉しいです。ただ…」
「……?」
「俺は今、かなり妬いています」
「は」
(妬いています?)
顔を上げた睦月さんが私を見る。
どこか苦しそうな、複雑な顔をしている。
目が合った瞬間心臓が爆発しそうになった。
睦月さんのこんな顔は見たことないけど、男の人がこういう顔をするところを見るのは初めてじゃない。