メジャースプーンをあげよう
(こんな平和な時間、ひさしぶり…)
近くでハトにパンくずをあげている親子連れをぼんやり見ていると、肩に触れられた。
お弁当を食べ終えた睦月さんがそういえばと切り出す。
「先日、上坂シェフにお会いしました」
「え?」
「彼は近ごろシフトに入ってないんですね」
「……はい」
本来大学が春休みのはずなのに、上坂くんは休みが続いていた。
あれから全然まともに話せてないから、体調でも悪いのかと連絡をいれようとも思った。
かわりに私が送っておくよと言ってくれたのは結衣子さんだ。
結衣子さんには詳しく話してないけど、たぶん何となく察している。頭のいい人だから。
(告白…のようなものの答えを、ちゃんとしようと思ってるのに)
「もしかして、心配してます?」
色々考えていたら、睦月さんに顔を覗きこまれた。
「……え、っと」
(なんて答えたら正解?)
休んでいるのが私のせいと思うほど自意識過剰にはなりたくないけど、意外とヤキモチやきの睦月さんにそんなこと言えるわけないし。
「ぶふっ」
―――と思ったら、睦月さんが我慢できないといったように吹き出した。
「な、なんで笑うんですか」
「ごめん。意地悪言いましたね」
睦月さんは肩を震わせて笑う。
オフモードではこんなにやわらかく笑う睦月さんにうっかりときめきながら、そんな場合じゃないと首を振った。
「彼は今、他大学特別講義を受けていたりと忙しいようですね」
「え? そうなんですか」
(他の大学の? なんでわざわざ…)
その時、うしろから肩に手を回された。
(えっ?)
睦月さんはすぐ隣にいる。当たり前だけど睦月さんじゃない。
そしてその睦月さんはピクリと眉をひそめて、私の背後を見遣った。