メジャースプーンをあげよう
顔を上げると、ミスター結構は端正な顔を少しだけ歪めているように見えた。
たとえるなら鉄仮面みたいに完璧に施された表情に、ほんの少し亀裂が入ったような。
「……あの」
「実は……他の社員にきいたところ、いつもと変わらないという意見が多く」
「え」
「また私が過敏すぎだとも言われたので……こちらこそ申し訳なかったと」
そう言ったと思うと、逆に頭を下げられてしまった。
(えっちょっと待って)
きっちり私に向かって腰を折り曲げた彼に、ただあたふたする。
こんな時はいったい何を言ってどうするのがベスト?
「あの、あの、顔をあげてください」
「クレーマーのような態度になってしまったこと、大変申し訳」
「あの! ほんとにいいですから」
状況に耐えられなくなって空いている右手を彼の肩に触れて、ほとんど無理矢理上体を起こさせた。