メジャースプーンをあげよう
その時、ネックストラップの先にあるネームが目に入った。
綺麗に印字されたローマ字で―――「Mutsuki Miyako」。
「……むつき……?」
「え?」
目にしたものをそのまま口に出したら、すぐそばから声がした。
はっと我に返ると、私に肩を触れられた状態のままの彼の顔が文字通り目の前にある。
びっくりしたような顔が、本当に、目の前に。
「わあ!?」
慌てて後ずさると、また微妙に表情を変えて―――でもきちんと姿勢を正した。
また頭を下げられては困るから、私も背筋を伸ばして彼の目を見る。
「あの、本当に気になさらないでください。こちらとしましても今一度の温度チェック確認の良い機会となりました。僅かな変化でも教えてくださったこと感謝していますから」
嘘はない。
この人が他の社員に指摘されたというように細かすぎるんだとしても、他にもそういうお客様がいらした場合の参考になる。