メジャースプーンをあげよう
睦月さんの表情に恥ずかしくなるのは、私の方だった。
「……今の大声は謝ります。大変失礼しました」
ムキになって大声出すなんていい年してみっともない。
左手で持ったポットに右手を添えて、頭を下げかけたその時―――
「お互いに悪かったんですよね?」
「え」
さっきの私みたいに、私の肩に睦月さんの手が伸ばされていた。
でも触れてはいない。
近年はセクハラ問題も大変だから、ちゃんとした会社ほど男性社員は下手に女性の身体に触れないよう徹底した―――
(いやそんなこと考えてる場合じゃなくて)
さげかけた身体を起こすと、さっきのキョトンとした睦月さんはいなかった。
無表情に近い顔に戻っていた。
でもどこかやわらかい印象を覚えるのは私の都合のいい妄想なのかもしれない。