メジャースプーンをあげよう

「睦月さん、なーんて呼んじゃって? 皆瀬さんこれ3番です」

 上坂くんはさっきのクロックムッシュとシュガーバターホットサンドを合わせて、カウンター棚に上げる。

「私たちミスター結構としか覚えてなかったしー? ハイ了解」

 作ったばかりのアイスコーヒーを手にした皆瀬さんは、それらを颯爽とトレイに乗せると私にウインクをしてホールに出て行った。

「お得意様のお名前覚えてないなんて失礼な事、珍しくないですか?」

 何を言ってもかなわないのはわかっているから、攻撃方法を変えてみる。
 オーダーがひと段落した上坂くんはエプロンの紐を結び直すと、腕組みをしてニヤッと笑った。

「フロア15は確かにお得意様だけど、ミスター結構が担当ってわけでもなかったからねー?」
「……え?」
「依頼の電話はほぼ女のコだしー? さっきもそう」
「え、そうなんですか?」

 それは初めて聞いた。




< 27 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop