メジャースプーンをあげよう
「睦月さん、なーんて呼んじゃって? 皆瀬さんこれ3番です」
上坂くんはさっきのクロックムッシュとシュガーバターホットサンドを合わせて、カウンター棚に上げる。
「私たちミスター結構としか覚えてなかったしー? ハイ了解」
作ったばかりのアイスコーヒーを手にした皆瀬さんは、それらを颯爽とトレイに乗せると私にウインクをしてホールに出て行った。
「お得意様のお名前覚えてないなんて失礼な事、珍しくないですか?」
何を言ってもかなわないのはわかっているから、攻撃方法を変えてみる。
オーダーがひと段落した上坂くんはエプロンの紐を結び直すと、腕組みをしてニヤッと笑った。
「フロア15は確かにお得意様だけど、ミスター結構が担当ってわけでもなかったからねー?」
「……え?」
「依頼の電話はほぼ女のコだしー? さっきもそう」
「え、そうなんですか?」
それは初めて聞いた。