メジャースプーンをあげよう
意識して正した身体の前に両手を揃え頭を下げたまま、私は続ける。
「ですが、こちらの落ち度ですので」
「いえ本当に結構です。それと、顔は上げてください」
数秒置いてから言われた通り顔を上げる。
胸を張って。
肩甲骨をきちんと開き、姿勢良く。
今は謝罪の場だからふんぞり返るみたいにならないように注意を払いながら、顎をひいて。
数十秒の間、相手は私の目を見つめ続けた。
フゥと小さなため息をおとして、質の良さそうなスーツに包まれた腕を組む。
「……新しい方ですか?」
「はい」
「お名前は……いちがつ、さん?」
「いつきです。一月と書いて、いつきと申します」
特別そこまで変わってると思ったことはないけど、小学生のころから一度で読まれたことはないから慣れている。こんな場でちょっと笑いそうになった。