メジャースプーンをあげよう

「申し訳ありません、大変失礼いたしました」

 あわてて頭を下げる私を止めたのは、ほかでもない睦月さんだった。

「構いませんよ。いつきさんには感謝していますし」
「…えっ」

 目が合う。
 たぶん結衣子さんや上坂くんが見たら無表情にしか感じない睦月さんの顔だけど、私には間違いなく笑ったのがわかった。
 ほんのちょっと。
 あの可愛かった笑顔と比べたら全然、ほんのちょっとだけど、笑った。

「コーヒーの温度です。かなり気を使って頂いているのが伝わってきたので」
「それは……」
「それに、あれから毎回来て頂いているでしょう。初回のことを気になさっているのかと」

(いえそれは勝手に指名してくる2名がいるからです)

 ―――とは言えるはずもなくて、曖昧に笑顔を返す。


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