メジャースプーンをあげよう
「私新入りなんで、出来ることをやらないと」
あまり長話していてもと思い、ドアへ向かった。
今日通されたのはA―1会議室。
何回か入ったことのあるC-2会議室よりも少し広くて、ポップなあっちとは違うモダンな室内。
(……ちょっと似ててやだな)
入った時から落ち着かなかった理由はわかっていた。
前の職場の会議室に似ているから。
(早く出よ……)
「いいですね、それ」
「え?」
思い出しかけた苦い記憶を、後ろからついてきた睦月さんの声で消された。
「出来ることから。たいへん結構な言葉です」
(また出た、結構)
(……じゃなくて)
「……え?」
もう1回、今度は呟きながら睦月さんへと振り向く。
思ったよりずっと近くにあって驚いたけど、もっと驚くことがあったから今度は違った意味で足が動かなくなった。