メジャースプーンをあげよう
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「それはね、恋よ」
結衣子さんはそう言うと、人差し指と中指を唇につけてから離し「スパァ」と謎の擬音を出した。
煙草を吸っているわけじゃない。ただの真似。
グラスをカランと傾けて中の氷を鳴らしたけど、中身は水。
ジュースでもない、ただのお冷。
しかもここはクローズ作業が終わったばかりのホールだ。
「……なんの真似ですか結衣子さん」
「え? ダメ?」
「ダメっつーかすげ古いっす」
ホールに現れた上坂くんのセリフは私の内心そのままで―――
「ちょっと待てなぜ上坂くんがいる」
「いつきちゃんヒドイ」
「ヒドイじゃないですよ。もう上がるねーってさっき言ったじゃないですか」
「忘れもの? みたいな?」
「上坂くんは異様に嗅覚が鋭いだけなの。許してあげていつきちゃん」
フォローになっているのか微妙な事を言いながら、結衣子さんはお冷を入れて上坂くんに手渡す。