メジャースプーンをあげよう
「どーもっす皆瀬さん」
上坂くんはそう言いながら、ついでみたいにテーブル上の掃除を始めた。
仕事をしているのなら帰れとは言えないのを見抜いての行動ってことくらい、わかっている。
「で、続きをどうぞいつきちゃん」
「上坂くんがいるなら話しません」
拭きあげたグラスやカップを棚にしまいながら答えた。
結衣子さんだけだと思っていたから睦月さんのことを話しただけで、上坂くんがいるならその必要はない。
「男心なら男に聞いた方が早いと思うよー」
「嫌です」
「いいじゃん、好きになったって問題ないでしょ?お得意様なんだし」
「だから尚更話しません」
「やっぱミスター結構なんだー」
「……あ」
(しまった)
「いつきちゃんって時々バカよね」
がっくりうな垂れた私をみて、結衣子さんがもっともな言葉を吐いて笑った。