メジャースプーンをあげよう
「……失礼。では、いつきさん」
「はい」
「今後二度とくり返さないようにしてください。クライアントに出すものだったら困ります」
「はい。申し訳ありません」
私はもう一度頭を下げた。
相手の目を見つめたまま申し訳ありませんは、さすがに出来ない。
でも今回はすぐに顔を上げる。一度上げてと言われたからには下げ続けるのも失礼だ。
その時、切れ長の目をした男の首からさげられたネックストラップの先が見えた。
でも一瞬だった上に何故かローマ字でちゃんと確認できなかった。
なんで漢字じゃなくてローマ字?
これだから大手の広告代理店は嫌なんだよ。
……っていう個人的な偏見と恨みは一切顔に出すことなく、私はひたすら申し訳なさそうな顔を作る。
「うん、もう結構です。じゃあ時間になったら取りに来てください」
「寛大な対応に感謝いたします。また伺います」
失礼します、と付け加えて、私はその部屋を後にした。