メジャースプーンをあげよう
何だろうと振り向いたのが間違いだった。
上坂くんはどう見ても含みのある笑顔をふりまいてきているし、結衣子さんはレジ閉じが終わった状態でニッコリと微笑みかけてきている。
私が何か言わない限り、無言の圧力は消えない。
(……まったくもう)
「なんですか、ふたりとも」
「いつきちゃんは相手の職業とか肩書きで男好きになるタイプじゃなさそうよねえ」
「ってことはー、やっぱり何回も話してるうちにいいなーって思ったのかなー?」
だから同時攻撃してくるのはやめてほしい。
腰から下にかけてある棚のガラスも磨きあげて、私は立ち上がる。
「好きとかひと言もいってないじゃないですか」
「いやさっき認めたじゃん」
「うん。認めたも同然よね」
だから、同時攻撃はやめてほしい。
「とにかく私はあがります。仕事、おわったので」
これ以上ここにいたら、いろんな意味で心がもちそうになかった。