メジャースプーンをあげよう

 エレベーターが階下へ運ばれる音はほとんど聞こえない。
 それがこのビルの上等さを体現しているようだった。

「もうついちゃったねー」
「そうですね」

 カフェは2階。
 エントランスは1階。
 当然なことに、着くのはあっという間だ。
 両側へと開いていくドアが完全に開ききる前に、私は右肩をねじこむように出ていく。

「お疲れさまでした」
「えー? そんな急ぐー?」

 よく通る上坂くんの声が後ろからついてくるけど挨拶はしたから問題ない。
 せめてと軽く会釈をし直して、エントランスを突っ切って歩いた。

「っ、さむ!」

 1歩外に出ると温かさが守ってくれた空間は別世界。
 ビル街特有の風が吹き流れて、急いで鞄からマフラーを取り出した。


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