メジャースプーンをあげよう
「いーつきちゃんっ」
ぽんと軽く肩を叩いてきたのは、他でもない上坂くんだ。
「あのねえ…」
「まだ聞きたいことあるんだって」
「私はないですから」
「ていうか年下なんだからタメ語でいいって何度も言ってるのに」
「先輩は先輩ですから」
「じゃーせめて仕事のあとはさー。あ、ほらこっち」
上坂くんは好き勝手なことを言いながらも、風でマフラーがきれいに巻けない私をさりげなく助けてくれる。
仕事中でも接客中でもこういう事を普通に出来ちゃうから、お店に来るお客様の中に一部上坂くん狙いの女性たちがいることを思い出した。
(大学生からこれじゃ、将来が怖いな)
「ありがとうございます」
「だからーカタイー」
「あのね、上坂くん」
「……いつきさん?」
ため息まじりに振り返りかけたとき、涼しい声が耳に流れこむ。
(え)
不満そうにしている上坂くんの向こう側。
たった今ビルから出てきたのは―――睦月さんだった。