メジャースプーンをあげよう
「どうもー」
私より先に上坂くんが口を開く。
なんでと顔を見ると、初めて見る顔をした上坂くんがまっすぐ睦月さんを見つめていた。
(……ううん、見てるとかいうレベルじゃない)
上坂くんはよく見る懐っこい笑顔を浮かべたけど、すぐに引っこめた。
口元は笑っているのに目が笑っていない。
相手を値踏みするような、射るような視線というやつだ。
「ちょ、ちょっと上坂くんお得意様に失礼なこと」
「……上坂? ……上坂、圭吾、くん?」
それまでと変わらない無表情の睦月さんの右眉が、少しだけ上がる。
(え? 知り合い?)
戸惑う私を無視した上坂くんは1歩、睦月さんの前に進み出た。
「覚えててくれたんすか? 光栄ですね」
私からは見えない角度だけど、声色からわかる。上坂くんは笑顔を作っている。
だけど、話し方も本人なりに丁寧だけど、明らかに敵意を感じる。