メジャースプーンをあげよう
思わず睦月さんを見ると、いつもの無表情だけど―――ほんの少し、苦い顔をした。
「……当然です」
「こんな近くにいたなんて知りませんでしたよ」
「………」
「てか転職したんすね」
(転職? 睦月さんが?)
「……ええ」
「親父もこのビルにいるんすよ。知ってました?」
「………ええ」
「食いにいってみたらどうすか。まー行けたら、ですけど」
睦月さんは言われるがままになっている。
冷静で端的に話すいつもの睦月さんの姿がない。
反対に、上坂くんの口はいつも以上によく回った。
私はと言えばこんなに悪意のある話し方をする上坂くんは初めてで、止めようと思うのに気圧されてしまいどうにもできなくなってしまった。
「……あの頃よりもずっと素晴らしくなっていました」
でも、静かに落とした睦月さんのひと言がマズイということだけは気付いた。